2002/5/2(Thu)

　神戸ウイングスタジアムに向かう道には交通規制が敷かれ、角々には、英語と日本語の両方が書かれた案内の看板が置かれています。Wカップまで1ヶ月を切って、準備がずいぶん整ってきているようです。雨が降り出しそうなほど、雲が厚く低く垂れ込め、湿っぽい天気。スタジアムの外の芝は、少し湿っているように思えます。金属探知器でのボディチェックを受けてスタジアムに入り、急傾斜のスタンドを登って行くと、じっとりと汗がにじんできます。

　午後6時35分、ピッチに選手たちが出てきます。中澤選手と並んで、笑顔で登場した満男選手は、ビブスを着けておらず、今日もベンチスタートのようです。

　ピッチに入ると、いきなり置かれているボールのところに駈け寄って、1つを手で押さえ膝をついて確保する満男選手。他の選手も、遅れて慌ててボールのところに駈け寄ります。三角形に3つ並べられていたボールを、満男選手と奥選手と中澤選手が確保しています。どうやら、誰が早くボールを持つかという、子どものような遊びをしていたよう。明るい笑顔を見せるサブの選手たちは、軽く体を動かし始めます。満男選手も服部選手と話しながら走ります。

　スロバキア戦で左手の甲の骨を骨折した柳沢選手、古傷の膝の痛みで途中交代した戸田選手、イングランドの所属チームで練習中に膝の靱帯を痛め、まだ完全には回復していない川口選手は、アップには出てきていないようです。

　5分ほど体を動かしたあとで、輪になって7対2のボール回し。メンバーは、満男選手、中澤選手、服部選手、明神選手、市川選手、三都主選手、奥選手、久保選手、山下選手です。

　中に入った久保選手の目の前で、ボールを持った満男選手は、ぴたりと動きを止めます。間合いを計る2人。久保選手が満男選手の足元に飛び込んだと同時に、満男選手は、スッと浮かせたパスでかわします。おちょくったようなプレーのせいか、それとも、満男選手が何か言ったのか、久保選手が満男選手を指さして、ずるいと言うように、大きな口を開けて叫びだします。叫びに叫ぶ久保選手。笑っている満男選手。寡黙なイメージのある久保選手のこの姿に、長期間の合宿で、選手同士が、すごく親しくなっていることを感じます。

　代表でも、満男選手の足元の巧さは目立ちます。目の前に2人が詰めて来ても、その間を通してパスを出したりで、パスミスして中に入ることはほとんどありません。それでも中に入る羽目になってしまった満男選手。イヤがって入ろうとしないところを、三都主選手に頭を押されて押し込まれます。満男選手は笑いながら輪の中心に入りますが、すぐにパスカットをして、外に出てしまいます。

　鳥かごの合間にストレッチ。スタメン組が、アップの場所を移動させると、バックスタンド側に移動して、また鳥かごです。外の輪にいた満男選手、鬼になっている三都主選手の真後ろから何か憎まれ口を叩いたらしく、三都主選手、怒って振り返り、満男選手に向かっていきます。逃げる満男選手。三都主選手が中に戻ると、満男選手はまた何か言ったようで、またまた三都主選手、追いかけていきます。じゃれ合っている2人。いったい、満男選手は何を言ってるのでしょう。

　鳥かごのあと、1分くらい軽いジョギングをすると、満男選手は奥選手と組んで、30メートルくらいのパスを交換します。

　昨年の11月に完成した、サッカー専用のスタジアムは、ピッチを間近に見下ろすことができ、メインとバックのスタンドの大屋根に歓声が響いて、とてもいい雰囲気です。照明に、美しく手入れされた芝が映えます。

　午後7時、アップを終えた選手たちが上がって行くと、入れ替わるように、100人以上はいるだろうカメラマンがどっと出て来て、ピッチサイドにスタンバイします。

　突然、場内が暗くなります。選手紹介です。まずはホンジュラスの選手の紹介。日本代表の紹介のアナウンスが流れると、場内には歓声が響きます。日本のスタメンは、GK楢崎、DF松田、宮本、中田浩二、MF稲本、福西、波戸、俊輔、森島、FW西澤、隆行です。俊輔選手が左サイドに入るようです。サブの選手のなかには、アップをしていない3人の名前も呼ばれます。

　7時10分、スポットライトに照らされて、国旗が入場します。2枚の国旗が、左右に広げられると、派手なアナウンスとともに、音楽が流れ、選手入場です。日本は青のユニフォーム。ホンジュラスは、白、白、白のユニフォームです。

　選手に続いて入場口から出てきたスタッフとサブの選手たちはベンチに向かいます。後ろの方から出てきた満男選手は、手にスパイクを持っています。スタッフの1人に、何か話しながらスパイクを渡すと、スタッフはそれをベンチの前に置きます。スタメンの選手のうち誰かがロッカールームに置き忘れていた替えのスパイクを、満男選手が持ってきたのではないでしょうか。前に白いラインの入った黒のスパイクは、隆行選手のものかもしれません。

　ベンチの前に、曽ヶ端選手と奥選手に挟まれて立ったままセレモニーを見る満男選手。奥選手は、サブの選手がつける緑のビブスを脱いでいて、スタッフに注意され慌てて着ています。柳沢選手、戸田選手、川口選手はサブの選手とは違うグレーのジャージを着て、ベンチにいます。ベンチのひさしが、ちょうど選手たちの身長と同じくらいで、中澤選手の頭がはみ出しているのに、満男選手と奥選手は、届くか届かないかくらい。背比べをしているようです。満男選手は曽ヶ端選手と話し込んでいます。

　セレモニーが終わると、拍手をする満男選手。続いて国歌斉唱です。国歌が終わると、ベンチの背もたれに背中を預けて、のけ反るように座ります。

　写真撮影を終えて、ピッチに散る選手たち。試合が始まろうという時に、ベンチのメンバー全員が立ち上がります。先に亡くなられた兵庫県サッカー協会会長に対する黙祷のアナウンス。スタンドも立ち上がり、黙祷を捧げます。

　午後7時23分、キックオフ。ホンジュラスは、短く早いパス回しをしています。

　前半5分、波戸選手が相手選手と接触、痛んでラインの外に出ると、トルシエ監督はサミアコーチに言って、市川選手と明神選手がアップを開始します。首の筋を痛めたのかライン際で治療。波戸選手がピッチに戻ると、2人はベンチに戻されます。

　日本選手は、疲れがあるのでしょうか、それともピッチや芝の影響なのか、ミスパスが目立ちます。

　11分、俊輔選手がペナルティエリアの手前まで守備に戻って相手を両手で押してファール。危険なところで、相手にFKを与えてしまいます。主審のホイッスルが吹かれる前に、俊輔選手は両手を大きく挙げて、押してないとジェスチャー。満男選手、奥選手、曽ヶ端選手は、ベンチに座り、笑って話しながらそれを見ています。奥選手は、両手を挙げて、俊輔選手の真似をします。

　このFKが壁に当たりゴールラインを割り、そこからのCKで、ホンジュラスは1点を先制します。

　満男選手は、のけ反った姿勢のまま足を組み、膝を手で抱えて試合を見ています。

　20分、左サイドを抜かれて、ゴール正面のフリーの選手にクロスが入ります。

　この少しあとから、サブの6選手がアップを始めます。三都主選手、市川選手、明神選手、奥選手、満男選手、久保選手です。短パン姿になった満男選手は、足踏みをしたり、左右にステップを踏んだり、大きく体を動かしています。1点を先行されている場面は攻撃の選手にとっては出番の時。やる気十分に見えます。

　24分、俊輔選手のFKをGKがミス。日本が同点に追いつきます。満男選手は、オーロラビジョンのリプレイを、立ち止まって見上げます。

　しかし、その1分後、福西選手が後ろからユニフォームを引っ張られ倒されたのが、主審にファールと認められず、ゴールに持ち込まれてしまい、1-2となります。日本の選手たちは、いっせいに抗議します。

　ひざまずいてストレッチをしていた奥選手の両脇に、満男選手と久保選手が立ってピッチを見ています。奥選手が指を差して、どうやら、今のプレーを見逃した2人に説明をしているよう。後ろにはフランス人のコーチも立っています。少しの間、真顔だった満男選手ですが、笑って何か言い出します。久保選手も笑顔を見せます。サブの選手たちの、奇妙とも思える明るさは、トルシエ監督に煽られ続ける競争の緊張を、適度にいなすためという感じもします。目の前の試合で、自分のやることに集中することが、メンタルを平静に保つコツでしょうか。満男選手は、やる気をみなぎらせ、1人、ダッシュを始めます。

　29分、相手陣内高い位置での俊輔選手のスローイン、満男選手は熱心に見ています。コーチから指示があったのか、サブの他の選手が走っているのに気づき、満男選手は試合を気にしながら走り出します。

　35分頃、今までアップをしていなかったサブの選手たちがアップを開始。満男選手、久保選手、奥選手はベンチに戻ります。三都主選手、市川選手、明神選手は、そのままアップを続けます。余裕のできた椅子に、一つ飛ばしに座る選手たち。満男選手の左隣には、一つ空いた椅子を挟んで柳沢選手がいます。

　37分、隆行選手が倒されると、満男選手は柳沢選手と言葉を交わします。足を椅子の上に乗せて、ストレッチをする満男選手。ケアしているのは左足なので、右の腿の張りは、もう大丈夫なのかもしれません。

　39分、俊輔選手が右CKを直接決めて同点にします。

　44分、左サイドを破られ、クロスを上げられて、ゴールを決められてしまいます。2-3です。

　ロスタイムは3分。オフサイドの笛が吹かれても、プレーを止めず、シュートするコスタリカの選手。今年のJリーグの基準では、イエローカードが出てもおかしくないシーンですが、韓国の主審はカードを出しません。キリンカップの2試合とも、主審の基準がJリーグとは大きく違いますが、W杯ではどうなるのでしょうか。

　前半終了のホイッスルが鳴ると、ベンチの選手たちはいっせいに立ち上がりますが、満男選手は座ったまま様子をうかがっています。中央の入場口以外から出入りできるかどうかを確認しているのでしょうか。結局、ベンチの選手たちも、出てきたときと同じように、入場口からロッカールームに戻っていきます。

　後半、開始前、市川選手と三都主選手がピッチに出てきます。交代は波戸選手と森島選手。前半左サイドだった俊輔選手が、トップ下に入ります。

　入場口から現れた満男選手と服部選手は、ベンチを通り過ぎて、すぐにピッチ脇でストレッチを始めます。久保選手、中澤選手、明神選手は、いったんベンチに座りますが、スタッフに促されたのか、すぐに立ち上がってアップを開始。結局は、コンディションのいいサブのメンバー全員がアップです。

　午後8時28分頃、後半開始。前半から引き気味だったホンジュラスですが、後半、さらに引いてきている感じです。

　ピッチの脇でアップを続ける選手たち。満男選手も、ダッシュしたり細かく足踏みをしたり、時に試合を気にしながらも、ずっと続けています。その中から、まず、後半22分、久保選手が隆行選手に代わって入ります。

　27分には、山下選手にコーチから声がかかり、アップのペースが上がります。

　28分、明神選手が交代の準備をします。ゴール前に攻め込んだ久保選手が、右からクロスを上げ、俊輔選手が飛び込み相手選手と交錯します。足を引きずりながら、ようやく立ち上がる俊輔選手。クリアボールを拾った日本、右からのクロスに飛び込んだ西澤選手が、ペナルティエリアの中で倒されPKです。

　この瞬間、1人、ゴール前で倒れ込んだ俊輔選手は、立ち上がることができません。ようやく立ち上がった俊輔選手を、コーチが呼び、ピッチの外に出させます。足を引きずりながらサイドラインまで歩いて行く俊輔選手です。

　ここで、稲本選手に代わって明神選手が入ります。
　満男選手がコーチに呼ばれます。ビブスを脱ぎながらベンチ前に来た満男選手に、トルシエ監督は、慌ただしく指示を出します。

　30分、PKを三都主選手が決めて、日本は同点に追いつきます。

　スタッフのチェックを受けて、立ち上がった俊輔選手。ピッチに戻ろうとしますが、足の痛みがひどいのか戻れません。トルシエ監督が、俊輔選手に近づきます。交代を告げたのでしょう。俊輔選手は右を向き、用意ができた満男選手を見て、ものすごく悔しそうな表情を見せます。

　試合再開のキックオフ直後の31分、満男選手の交代が認められます。ピッチに駈け込むと、すぐに、腕を伸ばし手を下から招くように動かして、バックラインにボールを要求する満男選手。中田浩二選手からのパスを受けます。

　32分、ドリブルでゴール前に進む西澤選手から、ゴール左に走り込む満男選手にパスが出ますが、速くて合いません。

　明神選手が満男選手に話しかけています。身振りからすると、あまり下がらないでくれと言っているのかもしれません。

　満男選手はトップ下に入っているようです。三都主選手にパスが出ると、前線に走り込みます。いつも通り指を差して、指示を出す満男選手です。

　34分、コスタリカ選手の足元のボールを取ろうと体を寄せていきますが、かわされてしまいます。

　36分、中央でボールを受けた満男選手は、相手に寄せられながらも、右にいた三都主選手にいいパスを出します。

　手を叩き、周囲に気合いを入れる満男選手です。

　37分、ゴール右、角度あるところからのFK。満男選手もポイントに来ますが、左足の方が蹴りやすい位置。三都主選手に蹴らせます。

　38分、松田選手からのパスを、明神選手に落とす満男選手。明神選手が満男選手とのワンツーを狙って、満男選手にボールを返すと前に走ります。パスは満男選手の手前でDFの足に当たりますが、それを拾って明神選手にパスを送ろうとする満男選手。惜しくもDFの伸ばした足で防がれてしまいます。

　左サイド、高い位置で三都主選手が相手選手を倒して、ホンジュラスのFK。満男選手は、下がろうとする三都主選手に大声で怒鳴ります。指示が分からなかったのか、手で合図しながらも下がってしまう三都主選手。満男選手は、ロングボールを蹴られないように、ダッシュで寄せます。

　38分、三都主選手のクロスが、ファーの久保選手に合います。その瞬間に、ニアサイドのスペースに全くのフリーで飛び込む満男選手。久保選手のヘディングシュートはバーの上を越えます。満男選手は、落としてよと言うように、久保選手に対して、軽く右手を広げてみせます。

　40分、右CKを三都主選手が蹴ります。満男選手が入ってからのセットプレーは、ずっと右で、満男選手が蹴るチャンスがありません。CKのクリアボールを、宮本選手が、蹴り返して満男選手の足元へ。密集した中、満男選手はトラップするとすぐに振り向いて、前の福西選手にパスを出しますが、福西選手は反応できません。

　41分、右サイドライン近くで市川選手からのパスを受けた満男選手、後ろから倒されます。

　42分、右サイドを上がる市川選手。前線に久保選手と満男選手がDFを連れて走り込みます。空いたスペースに入ってきた三都主選手に、市川選手からピッタリのクロス。三都主選手のシュートは、ゴール右に大きくそれます。

　ゴール前に飛び込んだ西澤選手がオフサイドになります。この試合、前線で体を張り続けてきた西澤選手、明らかに疲れが見てとれ、かわいそうに思えるほどです。

　48分、ペナルティエリアの手前で福西選手がボールを受けると、右の満男選手にボールを預けて、ゴール前に走り込みます。右足ワンタッチでスペースにパスを送る満男選手ですが、DFに読まれ、福西選手の前に走り込まれます。DFに激突する福西選手。プレーが途切れると、満男選手に、ピッタリだったというように手で合図します。

　少しして、試合終了のホイッスルが鳴ります。前屈みになる満男選手ですが、特に、足を気にしている様子はありません。悔しそうな表情の満男選手に、市川選手が人なつっこい笑顔で話しかけ、満男選手も笑顔を見せます。チームメートと握手したり、たたき合ったりして、挨拶を交わしていきます。ホンジュラスの選手が、満男選手に近づいてユニフォームの交換を申し出ますが、満男選手は応えません。

　試合後の挨拶を終えて、ベンチの方に歩き出した満男選手に、多分、先ほどと同じ選手でしょう、7番のユニフォームを着たホンジュラスの選手が、ユニフォームを引っ張って、交換しようとジェスチャーします。満男選手は手で制して断り、さっさと歩いて行きます。

　満男選手に続いて、何人かの選手が集まってきたところに、山本コーチが来て、スタンドを指さし、サポーターに挨拶に行くように促します。満男選手は、気乗りのしない表情です。確かに、引き分けの試合のあとにヴィクトリーランはおかしな話。コスタリカ戦のあとにも場内一週はありませんでした。

　メインスタンド前では、宮本選手とホンジュラスのキャプテンが立ち会って、表彰式が始まっています。

　山本コーチは、熱心に選手たちを促し、満男選手たちも、ようやく、ゆっくりと歩き始めます。ベンチにいた選手たちも合流して歩いて行きます。森島選手に声をかけられ、握手する満男選手です。

　中澤選手と笑顔で話す満男選手は、先頭に立っています。ゴール前から、バックスタンドの方に向かった満男選手は、ゴール前を通り過ぎ、ペナルティエリアの端辺りで向きを変えて、ホーム側のスタンドの方に歩き始めます。何人かの選手は、もっと、バックスタンド寄りに近づいていきますが、半分くらいは満男選手の後ろをついて、歩きます。

　戸田選手が満男選手の肩に手を回し、話しかけてきます。柔らかい表情で話す満男選手。戸田選手は、少し話すと、他の選手のところにも行って、まとわりつくように手を回して話しかけ、しばらくすると、もう一度、満男選手のところに話をしに戻ってきます。ジャージを着込んだ選手も多い中、満男選手は、今日も、7番のユニフォーム姿のままです。

　ホーム側を歩きながら、2度ほど、軽く手を挙げる満男選手。そして、メインスタンド下に去って行きました。

　俊輔選手のケガというハプニングで、15分ほどのプレー時間が与えられた満男選手。直接得点に絡むプレーもなく、試合の流れを変えることもできませんでしたが、慌ただしい交代の中でも、勝利を狙う貪欲さと、前に行きすぎない堅実なプレーを見せてくれたと思います。