2001/8/25(Sat)

　日がかげってくる、夕方5時半すぎ、選手たちがグッズの投げ込みのために、ピッチに出てきます。メインスタンド下の、少し低くなっている通路から、アウグスト選手が顔をのぞかせます。じっと、ピッチを眺めるアウグスト選手。他の選手が、後ろを通ってピッチに上がって行き、さっさと投げ込みをすませて、また後ろを通り過ぎてロッカールームに引き上げていくのに、窓枠の上に乗せた両腕に、あごをつけたまま、10分ぐらいは動かずにいたでしょうか。ボツボツと入り始めているサポーターや、夕暮れのスタジアムの雰囲気を味わっているようでした。新装のカシマスタジアムは、本当にきれいで、何回足を運んでも見とれてしまうのだけど、ブラジルからやって来たばかりのアウグスト選手も、きっと同じ気持ちで眺めているのではないかしら。ここでプレーすることを、とても気に入ってくれてるんだな、サッカーが大好きなんだなと感じさせてくれる姿でした。

　満男選手は、投げ込みには姿を現さなかったのではないかしら。夏の終わりのカシマスタジアムは、気温はそれほど高くないけれど、湿っぽくて、風もなく、座っているだけで、じっとりと汗ばんでくる感じです。スタンドには子どもや若い子の姿が多く、試合開始前から、高い声が響いています。

　2ndステージに入って、2連勝したアントラーズ。この試合は出場停止の選手もなく、曽ヶ端、名良橋、秋田、ファビアーノ、アウグスト、熊谷、中田、小笠原、ビスマルク、柳沢、隆行という、現時点でのベストに近いメンバーでようやく戦えます。ただし、名良橋選手は、右足首捻挫と右もも打撲、熊谷選手は右膝痛を抱えてのプレーです。

　稲本選手がアーセナルに移籍したガンバは、同じポジションの遠藤選手もケガ。ボランチに山口選手、橋本選手が入ります。

　1週間前のエスパルス戦で、ビスマルク選手出場停止の中、セレーゾ監督にも「主役」と言われる活躍を見せた満男選手、この試合での働きが期待されます。エスパルス戦では、2列目として、ボールをさばくことを中心に動いていたのですが、組む相手が、本山選手からビスマルク選手に変わることで、どうなるのでしょうか。

　選手入場で入ってきた満男選手、心なしか険しい表情をしている気がします。それでも、ピッチに散ってのパス交換は、調子がよさそう。左右にステップを踏んで、足元の確認をするいつもの姿も見られます。

　7時過ぎ、ガンバボールで試合開始。

　アントラーズ最初のシュートは満男選手です。開始1分、ビスマルク選手の左寄りのFKを、ゴール前ファーサイドの柳沢選手が横の満男選手にパス。ペナルティエリアに入ったところから、すかさず狙いましたが、当たりが弱くGKにキャッチされました。3分には、柳沢選手がアウグスト選手のフォローに左サイドに寄ったところで、前線に飛び込んで行きます。

　満男選手は、これまでビスマルク選手と組んでやって来たときと同じ、中盤のバランスを取り、機を見て前線に顔を出す仕事をしています。エスパルス戦とは、全く違った役割ですが、どちらも違和感なく高いレベルでこなせるのは、すごいことだと思えます。

　ビスマルク選手が入った中盤は、前節。本山選手の入った中盤よりテンポが遅く、エスパルス戦で見られたキビキビとした動きが少なくて、少しまったりした印象を受けます。

　左からの攻撃の多いアントラーズ、満男選手は、攻撃の場面は左に寄って、ボールを受けられるポジションにいますが、守備になったときは、決まり事らしく、新井場選手のケアに右に戻ってきます。ガンバの中で、一番怖さのある新井場選手を、名良橋選手、熊谷選手、満男選手でうまく押さえますが、左右に満男選手が動かなければならない距離は、いつもよりも多くなっていたかもしれません。

　アントラーズの守備面は、だんだん、よくなってきているようです。きれいに相手を囲み込んでボールを奪える回数が多くなっている感じ。ただし、去年と比べると、その位置が、満男選手のところではなくて、もう少し後ろになっているのが気になります。

　12分、ルーズボールを受けようとして、橋本選手に胸を蹴られます。胸を押さえて倒れる満男選手。起き上がるときに、主審に話しかけられ、大丈夫と答えたようですが、その後もしばらく胸を押さえています。

　ここで取ったFKから、秋田選手のヘディングシュート!　決まったと思ったのですが、オフサイドでした。

　16分、バックラインでのパス回しから、ファビアーノ選手が縦にパスを入れます。前線から走って受けに戻ってきた満男選手、DFを外すために、横にドリブルで進むと、前を向くことなく、縦パスを裏のスペースへ。見事なスルーパスになって、抜け出した柳沢選手、ゴールラインギリギリでキープします。そこから、後ろに戻したパスは、走り込んできた熊谷選手選手にぴったりと合いますが、熊谷選手のシュートは、ゴールわずか右にそれてしまいます。

　18分、隆行選手に対するファールに、満男選手が何か言ったようです。すぐ側にいた、今日の主審のヨルさん、鋭く満男選手の方を向くとホイッスルを鳴らしてゲームを止めます。大きなジェスチャーで満男選手を怒るヨルさん。お前と同じ位置から、オレはちゃんと見てるんだ。口出しするなという感じでしょうか。このヨルさん、UEFAチャンピオンズリーグ決勝の笛を吹いたという方らしいのですが、笛もジェスチャーも分かりにくくて。ささいな接触プレーで止めたり、フリースローの位置など細かく直してみたり、Jリーグの標準とはかなり違った判断をするので、最後まで、いつカードが出るかと、必要以上にハラハラしながらの観戦になりました。

　20分、名良橋選手からのサイドチェンジのパスを、左のスペースで受けた満男選手、走り込む柳沢選手に右足でクロスを入れますが、DFにクリアされます。このルーズボールから名良橋選手が、もう一度、左の満男選手につなぐと、今度は、右足でふわりと浮かせたボールがDFラインの裏に入ります。ファーサイドに飛び込む隆行選手。惜しくも合わず、GKにクリアされますが、満男選手らしいパスです。

　ボールを受けると、後ろから相手選手に倒される満男選手。倒されながらも、足でボールを相手から遠い方に動かし、奪われまいとします。満男選手には、特に山口選手がマークにつくことが多く、山口選手も、マークの受け渡しに神経質になっている様子です。

　アウグスト選手が左サイドでボールを持ったときに、ゴール前、ニアサイドに走り込んだり、動きのよかった満男選手ですが、25分くらいから、運動量が目に見えて落ちてしまいます。エスパルス戦では、最後まで元気に動けていたのですが、やはり湿気のせいなのでしょうか。

　27分、ペナルティエリア手前ゴール正面から早いリスタートで、直接ゴールを狙いますが、DFに当たってボールはバーの上を越えます。

　ガンバは守備は固いのですが、なかなか速い攻撃をしかけられません。試合は完全にアントラーズペースで進んでいたのですが、29分、CKから先制点を許してしまいます。ゴール前で、うまくマークが確認できていなかったようで、慌てた感じで満男選手が指示を飛ばしていた、その瞬間にボールを入れられ、ニーノ・ブーレ選手にヘディングシュートを決められてしまいました。ガンバは、前節、ジュビロに1-0と守り勝っているだけに、イヤな展開です。

　満男選手は、相手がバックラインにボールを戻すと、後ろの選手に向かって、2、3回、手を大きく回し、押し上げるように指示します。

　この時間帯だったでしょうか、プレーが途切れたときに、ライン際に出たセレーゾ監督が、熱い調子で満男選手に指示を出します。通訳の鈴木さんが訳す言葉を聞いて、それは難しいという顔で、ジェスチャーを交えながら答える満男選手。顔つきで、何を言いたいのか察したのでしょう、セレーゾ監督、ますます熱くなって何やら言ってます。あいだに挟まれた鈴木さんも、ちょっと困惑気味ですが、時間切れ。プレーに遅れないように、走って戻っていく満男選手です。

　名良橋選手からの横パスを、相手陣内中央で受けた満男選手、すかさずスルーパスを入れます。柳沢選手がスルー、パスは隆行選手に合ったのですが、トラップをミスして、そのままGKにキャッチされてしまいます。裏を狙ったパスが、なかなかFWと合わない感じです。

　40分、攻め込まれた場面から、一転して、アントラーズのカウンター。クリアボールから、ビスマルク選手、隆行選手とつないで、一気に相手ゴールに迫ります。守備に戻っていた満男選手も、一直線にゴール前まで、60メートルくらい駆け上がります。体は重そうに見えますが、ポイントでは、思いきり動く満男選手です。

　そして、前半終了直前の43分、セットプレーから、アントラーズが点を返します。右CKをビスマルク選手が、ショートコーナーで名良橋選手につなぎ、名良橋選手のクロス。ゴール前の混戦から、最後は中田選手が押し込んでゴール!!　アントラーズ、いいムードで前半終了です。

　後半の開始前、円陣を組んだあと、ポジションに着きながら満男選手は柳沢選手と、真剣に話をしています。前半の途中、DFの裏へのパスが合わなかったときにも、何か言葉を交わし合っていた2人。お互いのタイミングを確認し合っているのでしょうか。

　1分、相手ゴール前のFK。ポイントには、ビスマルク選手、満男選手、中田選手、アウグスト選手と、なんと4人もの選手がやって来ます。去年までは、ビスマルク選手以外蹴れない雰囲気だったのが、この変わり様。壁の様子を見て、左足のキッカーの方がいいということになったのか、それとも、アウグスト選手が倒されて得たFKだったせいか、アウグスト選手が蹴ることになったようで、中田選手はゴール前に移動しますが、満男選手とビスマルク選手はポイントに立ったまま。満男選手は、名良橋選手に少し近くに寄るように合図をします。多分、それはフェイントだったのでしょう。アウグスト選手は直接ゴールを狙います。ボールはバーのかなり上を越えてしまいました。

　5分、満男選手と熊谷選手の、みちのくコンビの攻撃が見られます。センターサークルの右にいた熊谷選手はバックパスを受けると、右側の名良橋選手に預け、その外側に回って、右のライン際を全速で上がって行きます。名良橋選手は、センターサークルの前のビスマルク選手にパス。満男選手が、左側から、ビスマルク選手に声をかけながら近寄ってきます。ビスマルク選手からのパスを受けると、右足ワンタッチで、DFのあいだを通し、右のスペースにグラウンダーの速いパス。オフサイドぎりぎりのところから、裏のスペースに抜け出した熊谷選手は、最後までボールを追ったのですが、残念ながら、ボールはゴールラインを割ってしまいました。

　満男選手は、後半になっても、やはり運動量が上がらず、苦しげに見えます。

　13分、ルーズボールに競った熊谷選手が落としたボール、DF2人に前後から挟まれながら、リフティング、落としたところを右のアウトサイドで、軽く、フリーになった熊谷選手に戻すパス。テクニックを見せてくれます。

　16分、ガンバは、吉原選手を、小島選手に代えます。

　18分、中田選手が上がって行くのを見て、満男選手、左足で縦にパスを入れますが、DFがヘッドで競り勝ちます。

　21分、アウグスト選手からのパスを、相手陣内中央で受けた満男選手、右サイドを上がる熊谷選手にぴったりの長いパスを出します。熊谷選手のクロスを、ファーサイドのビスマルク選手がヘディングシュートしますが、バーを越えます。

　満男選手の動きが落ちていることだけに気を取られていたのですが、チーム全体も、かなり疲れていたかもしれません。23分、ガンバのサイドチェンジのボールが、右のタッチラインを割ると、外の看板に当たってはね返り、前に転がって、ラインから50センチほど外側で止まります。そのボールを追いかけてきた熊谷選手は、そのままラインから出て、ボールを拾うと、フリースローが行われる方に、ボールを投げ返して、ピッチに戻ります。それだけなら、特に変わったことではないのですが、それは、名良橋選手がボールボーイから別のボールを受け取って、フリースローを行ったあとのこと。2人のあいだは5メートルくらいしか離れていなかったのですが、熊谷選手選手は、すでに名良橋選手がフリースローをしたことに気づいていないし、名良橋選手も熊谷選手がラインの外にボールを拾いに行っていることに全く気づいていなかったのです。フリースローを終えて、ピッチの中に入った名良橋選手は、なぜかボールがピッチの中に転がってきているのを見て、戸惑いながら外に投げ返していましたが、もうろうとした表情に見えました。ケガを抱えてプレーしている2人。ギリギリの状態だったのかもしれません。

　25分、満男選手は、ペナルティエリア右隅辺りでパスを受けると、中央に向かって切れ込み、DFに寄せられて倒れながらゴール正面の隆行選手にぴったりのパスを入れます。隆行選手が小さく浮かせたところに、アウグスト選手が飛び込みますが、先にGKにクリアされます。

　27分、最終ラインでアウグスト選手がボールを奪ってカウンター。満男選手とのワンツーで、左サイドを抜け出した熊谷選手のクロスは、柳沢選手が打ちきれません。DFがボールを奪ったところに、走り込んで来る満男選手。前線でのプレスで、少しでも相手の攻撃を遅らせようとします。

　後半になってガンバのディフェンスは、かなり荒っぽくなってきます。28分、山口選手に左足を引っかけられ倒された満男選手、立ち上がって、足をついた瞬間、かなり痛そうです。

　試合終了前にも、山口選手は満男選手の右足をタックル。イエローカードが出されます。この時は、スネ当てもずれてしまう激しい当たり方で、スネに、スパイクの跡がついたのでしょうか、満男選手は主審に足を見せてアピール、足を引きずりながらもプレーに戻りましたが、プレーが切れた瞬間にひざに手を当てて、ガックリとうつむいて痛がっていました。

　29分、さっきのファールで得たFKのクリアボールを、満男選手、すかさずシュートしますが、目の前のDFにブロックされます。

　攻め続けながら勝ち越し点を決められないアントラーズ。待望のゴールは、満男選手の得点でした。33分、バックパスを受けた曽ヶ端選手、左サイドの満男選手にきれいなフィードボールを入れます。ハーフラインを過ぎたところで、このパスを受けた満男選手、斜め前に向かってドリブルで上がると、山口選手が寄ってくるところを見計らって、隆行選手にパス。すかさず、中央に走り込みます。宮本選手と競りながら隆行選手がキッチリ帰してくれたボールを受けると、隆行選手、柳沢選手がDFを引き連れて目の前が開いたところで、シュート。アウトにかかったグラウンダーのボールは、都築選手の手の先をかすめて、ゴール右隅に突き刺さります。

　よほどこのシュートがうれしかったのでしょう。満男選手は、腰の高さでガッツポーズを何回も作ると、誰もいないコーナーの方に駆け出します。駈け寄ってきたビスマルク選手とジャンプしながら抱き合ったところに、やって来た柳沢選手が頭を抱きしめ、中田選手、隆行選手、秋田選手と駈け寄る選手が、次々と頭を叩いて祝福します。

　これで流れはすっかりアントラーズです。3分後には、中田選手の鋭いカーブのかかったFKが見事に決まって3-1。さっきの満男選手と同じように、コーナーの方に走って行く中田選手、他の選手たちが次々と駈け寄りますが、満男選手には、体力の余裕が全くなかったのでしょう。そちらの方は見向きもせず、淡々と自陣に歩いて戻ります。

　勝負を決めたアントラーズ。ベンチ前には青木選手がスタンバイします。1度だけですが、人数が足りていないのに、守備に駆け戻れない感じのあった満男選手、多分代えられてしまうだろうと、覚悟を決めていたのですが、交代はアウグスト選手とでした。今日のアウグスト選手は、動きもよく、ドリブルで相手を抜き去って、何回もチャンスを作っていましたが、攻撃的な選手だけに、守備固めの交代でしょう。

　43分、柳沢選手に代わって、本山選手が入ります。好調の柳沢選手には、どのチームも厳しいマークをしてきます。今日の柳沢選手には、少し疲れが見えた気がしました。満男選手は、交代の本山選手が入ろうとしているすぐ手前で、ペットボトルを拾い水を飲みます。

　44分、満男選手は、自陣で相手選手を倒して、ファールを取られます。

　ロスタイムの3分が経過して、ホイッスルが吹かれます。選手たちが1列に並んだところで、隣の秋田選手は、満男選手の頭をポンポンと叩いて労います。そして、反対側の曽ヶ端選手も。一礼がすむと、新井場選手、宮本選手、山口選手、小島選手と挨拶。去年の春のニュージーランド戦のアップの時、やたらと、満男選手の肩に手を回したり、仲よさげだった小島選手、今日も満男選手の首に手を回して、話しています。

　そして、満男選手は、バックスタンドに向かって歩いてくると、両手を上げて斜めに行きすぎます。足が気になるのか、立ち止まって下を向いている満男選手に、後ろから本山選手が肩を抱いて話しかけます。ゴール裏まで来ると、サポーターズシートからは小笠原コールが響きます。満男選手は、そのコールに、何回か手を上げて答え、青木選手と話しながら、引き上げて行きました。

　ケガが治って、ボールに触っているだけで幸せそうだった満男選手。生き生きとピッチを駈け回っていたエスパルス戦。その姿を自分の目で見ているだけに、満男選手の苦しげな様子に、復帰してゲームに出られるだけで楽しい時期なんて、あっという間に過ぎてしまうのだなと感じさせられてしまいました。高い目標がある限り、辛いことにも向かっていかなければならない。試合前、ピッチを眺めていたアウグスト選手と同じように、サッカーが大好きなんだといつも感じさせてくれる満男選手だけに、プロとしてサッカーをすることの大変さを、少し感じた試合になりました。

　祝・復活の新スタジアム初ゴールを、素直に喜ばないなんて、罰当たりなんでしょうけど。