2001/11/24(Sat)

　気温が19℃くらいまで上がった、この日の広島。雲一つない快晴で、14時のキックオフの時間には、強い日差しが照りつけて、半袖に着替えたいくらいの陽気です。急に上がった気温に、ピッチを走る選手たちは、暑さを感じるでしょう。

　アップに出てきた満男選手は、短パンに長袖のウインドブレーカー姿。シュート練習では、右足で左隅に見事なシュートを決めたり、ボレーシュートを決めたり、調子がよさそうです。GKの間近で、両足で飛び上がって、右のアウトサイドあたりで放ったシュートは、直接キャッチされてしまい、悔しかったのか、満男選手は、右のポストを、コンと蹴飛ばします。

　トラックの付いた大きなスタジアムを、たくさんの観客が埋めて、入場者数が2万人弱。アウエイ側のゴール裏にも、優勝決定後の消化試合とは思えないほどの、たくさんのサポーターが集まっています。人数にして300人くらいはいるでしょうか。鹿島から運ばれた10本のフラッグも準備されています。

　フィールドプレーヤーが引き上げ、まだGKのアップが続いている中、チアガールたちが出てきてパフォーマンスを見せます。チアガールといっても、ずいぶん小さい子が混ざっていて、小学生や中学生でしょうか。

　選手入場で入ってくるとき、満男選手は、隣り合った奥野選手と、まるで世間話でもするように会話を交わしています。11月4日に、2番目のお子さんが生まれた奥野選手。2人で赤ちゃんの話でもしていたのかもしれません。両チームの選手が左右に分かれていくのに、まだ、話が続いているらしく、ワンテンポ遅れる2人です。

　両チームのキャプテンに花束贈呈。このところ、秋田選手がキャプテンマークを巻いていることの多いアントラーズですが、今日のキャプテンは相馬選手です。

　前節で優勝を決めたアントラーズは、1週間後に控えるチャンピオンシップの前に、4日後にはアジアクラブ選手権を戦わなければなりません。ここまでの戦いで、ケガの選手も多く、今日は、主力のファビアーノ選手、熊谷選手、中田選手、ビスマルク選手、隆行選手の5人が遠征に帯同していません。本田選手も、試合前日になって足の違和感があるということで、ベンチ入りせず。メンバーは、GKが高桑選手、バックラインが、名良橋選手、秋田選手、金古選手、アウグスト選手。中盤に、相馬選手、ファビアーノ選手、満男選手、野沢選手。FWが平瀬選手、柳沢選手です。

　対するサンフレッチェは、この試合で勝てば、2ndステージ3位になる可能性があり、モチベーションは非常に高いと思われますが、服部選手がケガ、中盤の森崎和幸選手が出場停止、W杯予選のためかコリカ選手もおらず、ベストメンバーではありません。

　ファビアーノ選手も、コンディションがあまりよくないという話だったのですが、ボランチとして出場。多分、スターティングメンバーをレギュラー選手から6人以上入れ替えてはいけない、というJリーグの規定を考慮しての、苦肉の策のようなメンバーです。

　ピッチに散った選手たちの、何人かは半袖のユニフォームを着ています。満男選手は、アウエイ用の白い長袖のユニフォームです。円陣を組んでいる最中の小笠原コールに、満男選手は答えることができません。

　試合開始。アントラーズボールでキックオフ。まず、アントラーズが西日に向かって攻めます。満男選手は、野沢選手と並んで、攻撃的MFの位置に入ります。満男選手が左、野沢選手が右です。

　開始直後から、満男選手は左のライン際に開いていることが多いようです。野沢選手も右に開いていることが多く、真ん中のスペースに、相馬選手、ファビアーノ選手が上がってきますが、そこでボールを受けても、うまくさばくことができず、時間がかかってしまいます。やはり、ボランチが2人とも、専門の選手ではないというのは、かなり苦しい印象です。

　野沢選手は、2列目からの飛び出し、守備面も、かなり意識して、積極的にやっている印象があります。

　2分、自陣左サイドでボールを受けた満男選手、DFをかわして、斜めに切り込みながら、ハーフラインの15メートルくらい後ろから、右の前線の柳沢選手に美しいロングパスを送ります。トラップした柳沢選手は、上村選手に倒されます。

　Jリーグ最終戦のこの試合、イエローカードは清算されるので、今後の試合には影響ありませんが、レッドカードをもらってしまうと、チャンピオンシップが出場停止になってしまいます。タイトな守備をするサンフレッチェが相手だけに、その辺りも気になります。

　このプレーの後から、満男選手と野沢選手は、しばらく左右のポジションを変わりますが、それも少しのあいだです。

　5分、相手陣内に入ったところで、相手選手の背後からボールを追った野沢選手、こぼれたところを拾った満男選手は、DFの左の平瀬選手にロングパスを出します。平瀬選手がヘッドで落としたところに、素早く上がってきていた野沢選手、裏にパスを出しますが、柳沢選手に合いません。

　12分、相手右サイドをドリブルで上がる駒野を止めようと、満男選手、肩に手をかけてしまいます。これがファールを取られ、FK。ゴールから40メートルくらいはありそうな、遠いFKで、満男選手1人が壁になります。駒野選手が蹴ったボールが、ゴール前に入り、ヘディングシュートを決められて、先制されてしまいます。

　ここまで、どちらのペースというわけでもなかったと思うのですが、セットプレーから惜しい1点です。

　直後、相馬選手が倒されながらもキープしたボールを拾った満男選手、相手陣内中央を、ドリブルで進みます。タイミングを見計らって縦にゴール前に入れたパスは、惜しくも柳沢選手に合わず、直接GKにキャッチされてしまいます。

　満男選手は、1点を追う展開に、少し高めのポジションを取るようになります。野沢選手がボールを持つと、すかさず、ゴール前に走り込む満男選手。ファーサイドの平瀬選手が落としますが、ゴールラインを割ってしまいます。

　18分、グラウンダーのパスを、DFに背後につかれながら受けた満男選手、小さなトラップで相手を交わすと反転して、右裏のスペースに柳沢選手を走らせる見事なロングパスを出します。ボレーでシュートを放った柳沢選手ですが、ゴールのはるか上です。

　32分、こぼれ球をワンタッチで、裏のスペースに出す野沢選手。満男選手がダッシュで走り込みますが、GKが転びながらキャッチします。GKの上を飛び越える満男選手です。

　起き上がって、すぐに投げようとするGK。満男選手は、GKの後ろから走って戻りながら、投げられようとしているボールを蹴ろうとしてか足を高く上げます。それに気づいたのか、下田選手が投げるのを止め、主審が満男選手に注意を与えます。

　35分、ペナルティエリアの5メートルくらい手前、左サイドでボールを受けた満男選手、横に走りながら4人のDFを交わして、右の裏のスペースにパスを出しますが、平瀬選手と意図がありません。

　このあと、ようやく1本目のアントラーズのCK。キッカーは満男選手です。ニアサイドに合わせますが、これはクリアされます。

　36分、名良橋選手のフリースローを、右サイドライン際で受けた満男選手、ワントラップすると、中を見て、低いいいクロスをゴール前に入れます。DFにクリアされてから、柳沢選手、ゴメンというように満男選手に手を合わせます。もしかしたら、一瞬集中を切らせていたのかもしれません。

　37分、ゴール前でパスを受けようとした満男選手、足を高く上げてボールをトラップした直後に、横から突っ込んできた選手に足元をさらわれ、飛び上がるようにして、その選手の上に落ちます。どこか打ったのか、仰向きに倒れたまま、起きあがれない満男選手。その格好で、主審に抗議をしているようです。しばらくして、ようやく立ち上がることができますが、満男選手がファールを取られたようで、相手FKで、試合再開します。

　38分、ハーフラインの5メートルくらい前の左サイドでボールを持った満男選手、ゴールに向かって走り込む柳沢選手のスペースにバックスピンをかけたパスを送ります。バウンドして戻ってきたボールを、胸トラップで受けた柳沢選手ですが、シュートを打てません。

　39分、スタジアム中に「ポアラー!!、ポアラー!!」というセレーゾ監督の声が響き渡ります。去年から、何度も耳にしてきたこの言葉、多分、前に上がれというような意味ではないかしら。この声と同時に、DFはラインを押し上げ、FWはGKの前まで、また、ボールを追って走り出した感じがします。相手FWをオフサイドにかけ、アウグスト選手がボールを持って、中央に上がります。

　攻め上がるアントラーズ。高い位置に上がる満男選手ですが、野沢選手はサイドライン際にいることが多く、後ろからボールを散らす選手がいないので、速い攻撃ができません。満男選手、野沢選手のコンビですが、お互いに開いて、2人の距離が離れていることが多く、コンビネーションプレーをあまり見ることができませんでした。

　今まで出場機会の少なかった選手たちのモチベーションは伝わっては来るのですが、暑さのせいか、全体に動きが悪く思えます。逆にサンフレッチェのFWの積極的なチェイシングが目立ちます。

　今日、久々のリーグ戦登場になった高桑選手と、周囲の選手の連携もあまりよくなく、フィードボールが外に出てしまったり、中央にボールを入れても、直接、相手選手に渡ってしまったりします。

　43分、体をクルッと回しながらボールを胸で受け、パスを出す満男選手です。

　47分、満男選手が、アウグスト選手からのパスを受けて、左にパスを出そうとして、切り返して右を向いたところで、ホイッスルが鳴り前半終了です。満男選手は、ボールを拾って、主審に返すと、引き上げていきます。

　引き上げながら、野沢選手に近づいて話しかける満男選手。右手を上げて、下に引くように下ろすジェスチャーをしています。野沢選手も、それを見て、同じジェスチャーをくり返しながら話し続けます。暑いのでしょう、満男選手は、上着の裾を、パンツから引き出します。

　後半、サンフレッチェが西日に向かって攻めることになります。

　両チームとも交代はなく、満男選手は、また左の攻撃的MFの位置です。前半の終わり頃、アウグスト選手が、ガンガン、真ん中から上がり、相馬選手が左サイドを上がっていたので、後半から、2人のポジションが変わるのではないかとも思ったのですが、それもありません。

　ファビアーノ選手がピッチに倒れ、担架で運び出されます。青木選手が準備を始めます。コンディションがあまりよくないというファビアーノ選手、ここでケガをしないかと心配です。ファビアーノ選手がいないあいだ、満男選手は、ボランチの位置に入ります。

　4分、サイドからゴールに切れ込む久保選手を、ペナルティエリアの中で名良橋選手が足を掛けて倒してしまいPK。これを久保選手に決められて、0-2になります。ここから、一気にチームが崩れてしまった印象があります。

　6分、右サイドから、左のスペースにパスを出す満男選手。平瀬選手が、胸トラップで受けますが、オフサイド。でも、意図が通じ合っていたのでしょう。満男選手は平瀬選手に拍手を送ります。

　11分、満男選手の右CKは、ニアに低い、いいボールが入ります。相手DFがクリアしますが危うくオウンゴールになるところ。ゴール右を抜け、再度CKになります。

　13分、野沢選手、ファビアーノ選手が、青木選手、内田選手と交代になります。青木選手がボランチに入り、右サイドに内田選手、名良橋選手は1つポジションを上げます。このあと、しばらくのあいだ、満男選手が右、名良橋選手が左にいました。早めの交代でしたが、チームは、さらにバランスを崩していきます。

　14分、満男選手の左CKは、DFとGKのあいだ辺りに入りますが、GKが前に出てパンチングで逃れます。

　15分、ペナルティエリアのわずかに外で、高桑選手が藤本選手を倒し、イエローカードが出ます。ここからのFK、ポイントの後ろに、サンフレッチェの選手が3人立ちます。ちょんと動かしてからシュートを打つと見抜いた満男選手、すぐにダッシュしてシュートを打つ選手の前に飛び出していこうと構えます。相手がボールに触る前に、フライングしてしまう満男選手。審判がプレーを止め、満男選手を下がらせて、FKのやり直しです。満男選手が飛び込んだ脇を抜けて放たれたシュートは、ゴール右をかすめ外に出ます。

　17分、柳沢選手が長谷川選手に交代になります。

　22分、左ライン際で、ボールをキープする満男選手を藤本選手が倒します。ボールがラインを割ったと思った満男選手、即座にフリースローを行いますが、審判はプレーを止め、FKの指示。すぐにボールを蹴ろうとする満男選手のすぐ横から、藤本選手が離れません。満男選手は、それを気にしながら、主審のプレー開始の合図と同時に、前にボールを蹴りますが、直接、相手選手にカットされてしまいます。自分のミスを取り返そうと、すぐに、相手にアプローチ、ボールを奪い返す満男選手です。

　長谷川選手が入った後も、やはり、攻撃の形を作れないアントラーズ、前がかりに攻めたところを、ボールを奪われ、大木選手にゴールを決められます。これで0-3。その瞬間、じっと立ちつくす満男選手です。

　27分、松下選手に代わって、森保選手が入ります。

　28分、自陣左サイドで、ボールを奪われる満男選手、パスをつながれ、久保選手にゴール前まで運ばれますが、秋田選手が防ぎます。

　30分、相手陣内でのミスパスから、簡単にパスをつながれ、久保選手にゴールを決められます。これで0-4です。

　31分、前線に出て、後ろの選手にもっと上がるように指示する満男選手です。

　36分、左サイド高い位置の満男選手から、DFラインの後ろの平瀬選手へマイナスのパスが通ります。平瀬選手は、浮かせてゴール前に走り込む名良橋選手にいいパスを出しますが、ギリギリでGKにキャッチされます。GKの前に飛び込んでいく名良橋選手に、勝ち負けはともかく、意地でも1点を奪おうという気迫を感じます。

　42分、途中交代で出てきた青木選手が、がむしゃらに右サイドを上がります。ゴールライン近くから放ったクロス、ファーサイドで長谷川選手とDFが競り合ってラインを割り、CKになります。

　アントラーズの意地の1点は、このCKから。CKを蹴るために、走ってコーナーに向かう満男選手。ボールは、いったんDFにクリアされますが、ペナルティエリアの外にいた名良橋選手の正面に行きます。胸トラップで落としたボールを、名良橋選手は思いっきりシュート。ゴール右隅に決まります。

　プレー再開に備えて、ポジションに散った選手たちに、満男選手は手を叩いて、気合いを入れます。気を抜かず、もう1点取っていこうということでしょうか。

　ロスタイム4分の表示。満男選手は、一番高い位置で、相手DFにチェックに走ります。

　最後まで、得点を取ろうとする気持ちは見せてくれたアントラーズですが、1-4で試合終了です。

　一礼が終わると、満男選手は奥野選手を探して声を掛けます。ゴール裏に挨拶に歩き出して、藤本選手の後ろを通りすぎるとき、何か声を掛けながらか、ちょこんと背中を触る満男選手。藤本選手は、それに気づいて、満男選手に手を出し握手します。

　上着の裾を出して歩いていく満男選手。ゴール裏の看板は越えずに、サポーターに挨拶すると、メインスタンドに向かいます。ピッチの脇に置いてあるボトルのところをちょうど通りがかって、負けた悔しさに蹴飛ばして行くかもと見ていると、ボトルのちょうど真上を、足をボトルの右と左に、すすっと出して通りすぎます。腰が痛いのか、左の腰に手を当てて、サンフレッチェの選手がヒーローインタビューを受けているのを、チラリと見ながら、メインスタンド下に去っていきました。

　もし、この試合を勝てば、2ndステージ15勝1敗。Jリーグの勝率No.1の記録を作ることのできたアントラーズですが、そんな記録より、アジアクラブ選手権とチャンピオンシップが重要。この試合のメンバーは、やむを得ない選択だったでしょう。ただ、それでも、2万人もの観客の見る中で、最後まで戦わなければならない選手たち、勝ちたかったに違いありません。その悔しさを、感じずにはいられない試合でした。