2002/4/17(Wed)

　前夜の強風が夕方になっても収まらず、不気味な暖かい風の吹き荒れる関東地方。横浜国際競技場の上空には、分厚い雲が垂れ込め、ホーム側に何本も持ち込まれた日の丸が、強くはためいています。アウエイ側の旗は、静かに垂れ下がっていて、競技場の中で、風が巻いているようです。

　ライトに照らされたピッチでは、男女混合の子どもたちのサッカーが行われ、暗い空には、ヘリコプターが1機回旋しています。

　6時になると、フェアプレーフラッグを持つ子どもたちの練習が始まります。代表のマスコット、カラッペ君たちが場内を回り、オーロラビジョンには、録画されたサポーターのメッセージが流れます。ウクライナ戦の好プレーで期待が高まっているのでしょう、「小笠原選手頑張れ!」と満男選手の名前を挙げるサポーターも沢山います。

　6時半、サミアコーチがピッチに現れ、ボールを並べてアップの準備を始めます。GKたちが、一足早く登場してアップを始めます。

　満員のホーム側のゴール裏に、大きなユニフォーム型の青いビッグフラッグが広げられる中、日本代表のフィールドプレーヤーたちが姿を現します。黄色の2番のビブスを着けた満男選手。スタメンです。整列して観客に手を挙げる選手たち、満男選手は、ついでに手をピッチについて足を閉じたままストレッチをしています。ビブスを着けているのは、満男選手のほか、宮本選手、松田選手、中田浩二選手、戸田選手、明神選手、三都主選手、市川選手、隆行選手、柳沢選手です。

　まずは軽く走り出す選手たち。その途中で、満男選手はしゃがみ込んでシューズの紐を直します。ゆっくりと時間をかけて紐を整える満男選手は、青の長袖のジャージに、青の短パン。青いストッキングを、足首まで下げています。

　黄色いビブスを着けたスタメン組の選手たちは、サミアコーチの指導の下、パス交換。ビブスを着けていないサブの選手たちは、ひとかたまりになって鳥かごを行っています。ビブス組は、パス交換のあと、全員でストレッチです。

　反対側のピッチでアップを行っているコスタリカ代表は、袖に赤いラインの入った紺のジャージに青のパンツ姿です。

　アップの途中で、満男選手は手鼻をかみます。左サイドにいた、スタメン組の三都主選手にワンタッチの柔らかいパスを送る満男選手です。

　サミアコーチが大きなジェスチャーで動き方を説明。選手たちが真剣な面もちで聞いています。代表のアップのやり方は、よく分からないけれど、いままで選手たちがやったことのない新しいことをしているように思えます。試合直前のコンセントレーションを高めていこうというこの時間帯には不向きなトレーニングに思えます。何か突然の指示が出ているのでしょうか。サミアコーチは手でボールを持って動いていきます。それに合わせてプレスをかけるように、チャレンジしていく選手たち。サミアコーチが動き出すと、満男選手はコーチに体をぶつけます。

　6時55分頃から、ダッシュ。そして、それが終わると、ロングパスを蹴り合ったり、少しのあいだ、フリーで練習です。満男選手は、ボールを拾うとポーンと上に、自分の頭より高くリフティング。そして、左サイドのライン際にいた三都主選手に、中央から長いパスを送ります。三都主選手とのコンビネーションを意識しているようで、2人は、少しのあいだパス交換を交わします。

　そして、今度はロングシュート。満男選手が放った1本目は、左にカーブがかかりながらもゴール左に切れ、2本目はバーにぶつかって外に出ます。

　メインスタンドの方向に引き上げながら、今度は右サイドにロングパス。隆行選手にボールを送ります。そして、足元のボールをスタッフに返して、明神選手と前後して上がって行きます。

　選手たちがピッチから姿を消した直後、スタジアムの明かりが突然落とされます。選手紹介の開始です。スタメンで紹介される満男選手の、画面に映し出された顔写真は、少し笑っています。

　7時5分、国旗の入場。コスタリカと日本の国旗を子どもたちが運びます。そして、選手入場。フェアプレイフラッグに続いて、両国の選手が入ってきます。赤いユニフォームのコスタリカの選手は、青い日本代表のユニフォームを着た子どもの手を、青いユニフォームの日本の選手は、赤のコスタリカのユニフォームを着た子どもの手を引いています。キャプテンの宮本選手に続いて2番目に入場してきた満男選手は、今年初めての半袖姿。ほかにも何人か半袖の選手がいます。満男選手が連れている子どもは背が大きく、満男選手の肩くらいの身長で、満男選手の背の低さが目立ちます。右手にペナントを持ち、左手を子どもとつないでの入場です。

　子どもを前に立たせて一列に並ぶと、満男選手は体を左右に曲げて軽いストレッチ。目の前の子どもが段取りに遅れて、隣の子に軽くこづかれてからあわてて走って行くと、隣の柳沢選手と顔を見合わせて笑ってます。

　小泉首相や皇室の方が、両チームの選手を激励、一人一人と握手を交わします。順番を待つあいだ、満男選手は、足を後ろに持ち上げたり、前屈したりして、盛んにストレッチをしています。目の前に皇室の方が来てから、体を起こして握手を交わすと、何か話しかけられたのか、うなずきます。半袖を着ていても暑いのか、右手で鼻や、あごの汗を拭うような仕草をしています。

　両国の国歌の斉唱。観客が起立します。国旗に体を向け、口ずさむコスタリカの選手たち。今年のW杯の出場国ですが、この試合は今シーズン、マンチェスターシティーのプレミアリーグ昇格に一役買ったワンチョペ選手など、数人の主力選手を欠いています。

　君が代は木村弓さんの独唱です。ホーム側の国旗の方に体を向け国歌を聴く選手たち。何人かの選手は声を合わせていますが、満男選手は口を結んでいます。

　ピッチに明かりが入り、君が代が歌い終わられると、満男選手は、軽く4回拍手をします。サポーターが大きくどよめき、「ニッポン」コールが響きます。体を動かす選手たちの中で、満男選手はしゃがみ込んでストレッチします。

　日本選手がコスタリカの選手の方に行き、ペナントを交換。選手たちがピッチに散ります。小泉首相が再びピッチに現れ、中国の主審に向かってボールを蹴るパフォーマンス。平日の夜の試合とあって、指定席にはこの時間になって駆けつけるサポーターも多く、ザワザワとし、7万人収容のスタジアムは最上段まで、満席になっていきます。

　ピッチでパス交換をしていた選手たちは、円陣を組むようにいったん中央に集まりますが、もう一度、ピッチに散りパス交換をします。そして、試合開始前、再びピッチの中央に集まってくる選手たちの表情に気合いがみなぎります。両手で自分の頬を叩く市川選手。満男選手は、大きな声を出しながら強く手を叩き、チームメイトに気合いを入れます。

　7時18分、コスタリカの2人の選手がキックオフに備えて中央に立ちます。その、左右に立つ、柳沢選手と隆行選手。満男選手と明神選手は、自陣、センターサークル上に構えます。ホイッスルが鳴ると、隆行選手が思い切り飛び出しますが、これはフライング。隆行選手が戻ってきたところでゲームが開始されます。後ろに戻されたボールを追って、思いっきり前に走っていく満男選手です。

　自陣内で明神選手が倒されて得たFK、満男選手が蹴ろうとしますが、後ろから戸田選手が自分が蹴ると言ったのか、蹴らずに前に上がります。どことなく、中盤でのパス回しが不安定な日本代表、柳沢選手から戻されたボールを、戸田選手がなんとか明神選手につなぎますが、そこで奪われてしまいます。

　戸田選手の表現では、この日のシステムは「3ボランチ」。戸田選手が中央、満男選手が左、明神が右だったということ。慣れないシステムのせいか、日本チームは連動してプレスをかけることができず、高い位置からプレスをかけようと、一人一人が飛び込んでいきますが、相手の早いパス回しに、次々と交わされてしまいます。

　開始1分には、ロングパスがペナルティエリア内で相手FWに通りそうになり、DFが体を寄せて防ぎます。

　落ち着かない状況に、日本チームは中盤でボールを回してリズムを作ろうとはせず、強風を利用しようというのか、松田選手が、そして宮本選手が、ロングボールを相手DFラインの裏に蹴り込みますが、いずれも、成功しません。

　4分、自陣内でボールを受けた柳沢選手は、3人のDFに囲まれた満男選手にボールを戻しますが、コースが悪く、満男選手は戻りながら足を伸ばしてボールをコントロールしますが、フォローなく、前後を相手選手に挟まれ、前の選手の股抜きを狙いますが、相手にボールを奪われ、パスをつながれてピンチになります。

　ゴールキックもすぐに相手ボールになり、速いテンポでパスを回されます。自陣に前を向いてボールを持った選手に、体を当てて奪おうとする満男選手ですが、かわされてしまいます。そこからボールをつながれて、日本の左サイドの裏に大きく開いたフォンセカ選手がシュートを放ちますが、バーの上です。

　5分、満男選手はボールをもらいにバックラインまで下がりますが、そこには出てきません。その直後、右サイドに相手選手を追い込んで、パスミスを誘う満男選手。フリースローを得ます。

　6分、宮本選手がボールを持ったところで、中央で手を広げパスを要求する満男選手ですが、宮本選手は左にパスを出します。

　相手フリースロー、後ろにボールを戻すところにプレスをかけに行くよう、柳沢選手と三都主選手に要求する満男選手。前に走ったのは柳沢選手です。

　中田選手の前に体を入れて、ボールを奪ったフォンセカ選手に、思い切り体を当ててボールのコントロールを失わせる満男選手。そこには、味方の選手より、相手選手が早く飛び込んできて、拾われてしまいます。

　7分、隆行選手が倒れて得たFK、ゴールから40メートルほどの距離の左サイド寄り。ポイントから遠くへコスタリカの選手がボールを蹴り出すのを見て、満男選手は、中国の主審にファールをアピールします。FKを蹴るのは満男選手。逆サイドの市川選手にグラウンダーのパスを出しますが、市川選手がワンタッチで上げたクロスは相手選手に読まれ、カットされてしまいます。

　右サイドでボールを持った市川選手に、中央で、満男選手は大きく両手を挙げてボールを要求しますが、市川選手は、狭いところを通して隆行選手にパス。これを体を張ってキープした隆行選手が、左の柳沢選手へ。柳沢選手から、もう一つ左の満男選手とパスがつながります。満男選手が、ゴール正面からダイレクトで打ったシュートは、ゴール左にそれてしまいますが、アントラーズのコンビから生まれた、日本代表の最初のシュートです。守備に戻りながら、満男選手に親指を立ててみせる三都主選手。満男選手も手で会話しています。

　このゴールキックから、フォンセカ選手が、またシュートを放ちます。ボールを持つと、素早くゴール前に運ぶコスタリカです。

　9分、隆行選手の取った右CKを蹴りに行く三都主選手は、両手を大きく動かしてサポーターの応援を煽ります。

　三都主選手のショートコーナーを受けた市川選手のクロスはミスパスとなり、直接相手DFの足元に落ちますが、クリアボールがコントロールを失います。クリアされると見て、いったんは守備に戻ろうとしていた満男選手は、それを見た瞬間に体を返し、ボールを奪うと、左足でシュート。これは、ゴールの上に外れます。外した瞬間の悔しがる顔が、大きくオーロラビジョンに映し出されます。

　前からのチェックに走る満男選手。10分、戸田選手、隆行選手と右サイドでボールを奪いますが、戸田選手がファールを取られてしまいます。

　中盤、左サイド寄りに位置することが多かった満男選手は、この辺りから、左右に動くようになってきます。戸田選手によると、3ボランチがよくなかったので、早い時間に自らの判断でダブルボランチに戻したということなのですが、この時間帯でしょうか。

　11分、左サイドに開いたフォンセカ選手から、クロスが入りますが、オフサイドです。コスタリカは、日本の左サイドの後ろのスペースを狙っているようです。中田浩二選手は、その対応に追われています。

　高い位置で、柳沢選手が落としたボールを拾おうとする満男選手ですが、合いません。

　12分、バックラインからのパスを、ハーフラインで、後ろにDFを背負ったまま胸で落とした満男選手、いったんボールを奪われかけますが、足を相手選手の前に伸ばして、足先でボールをコントロール、市川選手にパスします。市川選手は、これを満男選手に預けて右を上がり、満男選手はためを作って、いいパスを通します。市川選手はラインギリギリで胸トラップし、柳沢選手にパスを通しますが、奪われてしまいます。

　13分、左サイドで奪ったボールを受けた満男選手、大きく開いた右サイドに、市川選手を走らせるパスを出します。市川選手のクロスは、相手選手に当たって外に出ます。

　この時間帯、満男選手は、攻撃時には2トップの近く、高い位置にポジションを取っています。

　GKからのフィードボールが、また左サイドでフォンセカ選手に通ります。三都主選手は、市川選手とともに上がったきりのポジションにいたために戻れず、戸田選手が対応に走りますが抜かれます。裏に出されたパスはオフサイドになりますが、また左サイドからピンチを迎える日本です。

　14分、戸田選手からのパスを後ろに戻りながら受けた満男選手は、背後からスピードを上げてボールを奪いにくるDFを察知して、ワンタッチでバックラインにボールを戻します。この頃から、ようやく、少し日本に落ち着きが出始めます。

　中田浩二選手にボールが渡ると、もらいに近づく満男選手。中田浩二選手の蹴ったボールは、頭の上を通るロングパスで、満男選手は、思わず頭を下げます。このパスも、相手にカットされてしまいます。

　ボールを持つ相手選手に体をぶつけていく満男選手。チームがボールを奪い返すと、すかさず、前線に上がって行きます。

　15分、目の前にいる相手選手の肩に手を当て、くるりと押しやるようにして前に出る満男選手です。

　左サイド、低い位置でファールを取られる日本。満男選手と三都主選手が壁になります。ここから立て続けに攻め込まれますが、16分、オフサイドで難を逃れます。

　日本の攻撃時に、三都主選手は高い位置を取ります。宮本選手からのパスを、下がって受けた満男選手、左サイドで三都主選手がボールを要求しますが、それを見ながら、中田浩二選手に戻します。

　17分、ディフェンスラインのクリアボールを、左サイド低い位置で受けた満男選手は、右サイドの市川選手のスペースにパスを出します。

　18分、前線でDFに囲まれながらパスを受けた柳沢選手、すぐ横まで上がっている満男選手にパスを通そうとしますが、ボールをコントロールできません。

　相手ボールになっても、左サイドの高い位置に張ったままで、守備に戻らない三都主選手。バックラインが拾ったボールを、中田浩二選手が持つと、満男選手が左サイドをパスを受けに戻ります。縦パスを、右足でトラップしてコントロールすると、左足で軽く浮かせて、縦に三都主選手にパス。これを受けて上がった三都主選手のクロスに柳沢選手が走り込みますが、ゴール直前でクリアされてしまいます。

　ここからのCK、三都主選手が満男選手に短く出します。満男選手が三都主選手に戻すと同時に、腕を上げて戸田選手を示します。三都主選手から、戸田選手に出したパスを、戸田選手はサイドを変えて、市川選手に出しますが、うまくつながりません。

　20分、左ライン沿いで、中田浩二選手、三都主選手、戸田選手、満男選手で短いパスを回す日本。満男選手の三都主選手へのパスは通りませんが、ようやく、パスを回してリズムをつかめるようになってきているようです。

　低い位置で戸田選手からのパスを受けた満男選手、周りの状況を見ながら、もう一度パスを戸田選手に戻します。左サイドに流れてボールを触ることが多くなった満男選手。三都主選手は上がりっぱなしで、左サイドに、前から三都主選手、満男選手、中田浩二選手と縦に並ぶような形になっています。
　左サイドで、柳沢選手に速い縦パスを入れると、前に飛び出していく満男選手。柳沢選手が後ろに返したパスを、戸田選手が隆行選手に入れます。隆行選手は満男選手に落としますが、合いません。

　21分、中田浩二選手がワンタッチで満男選手に入れた縦パスを、満男選手は右の足の裏でコントロールすると振り向き、右足でゴール前にロングパスを入れます。絶妙のコントロールのパスに、隆行選手が走り込みますが、GKにキャッチされます。

　22分、左ライン沿い、三都主選手がヘッドで戻したパスを、満男選手はDFに詰められながらも、落ち着いて中田浩二選手に戻すと、指を差して指示を送ります。

　右サイド、市川選手がボールを持つと、両手を大きく挙げてボールを要求する満男選手ですが、パスは出てきません。

　23分、戸田選手からのパスを戻りながら受け、いったん戻します。もう一度、今度は戸田選手が縦に隆行選手にパスを送ると、前に走り込みながら落としたボールを受け、左の三都主選手に預けると上がって行きます。三都主選手が中央に入れたボールがクリアされ、ルーズボールを拾った三都主選手は、すぐに満男選手に預けると上がります。満男選手は間を置いて三都主選手にパスを返します。三都主選手は目の前の相手を抜こうとしますが、ボールがゴールラインを割ってしまいます。

　ここで森島選手がアップ場からゴール前にやってきて、交代の準備を始めます。

　24分、ちょうどハーフライン辺りで、ベンチ側のタッチラインにボールが出て、プレーが止まると、準備を整えた森島選手の横に、7番のボードが示されます。あまりに早い選手交代です。

　相手スローインに備えて、タッチラインに向かって小走りに近づいてきた満男選手は、ボードに示された7の表示を見ると、歩みをゆるめます。感情を押し殺しているように表情は変えず、タッチラインで森島選手と軽くタッチをかわすと、ベンチに向かってゆっくりと歩きます。アントラーズでは、例え後半の交代でも、自分がまだやれるあいだであれば、悔しさと怒りを露わにする満男選手。今日の、わずか24分間での交代に、激怒していないはずがありません。

　満男選手を気づかうようにサミアコーチがすぐに声をかけ手を差し伸べながら肩を叩きます。山本コーチもタッチラインまで出てきて満男選手に声をかけます。満男選手は、サミアコーチの手を軽く握り返したものの、言葉は返しません。

　コーチングエリアの中で2本の指を立て、せわしなくピッチの選手たちに指示を送っていたトルシエ監督は、満男選手が目の前を通ると、その指示を中断して、満男選手の尻を叩きます。よくやったというねぎらいの仕草で、この交代を満男選手のできが悪いせいだと思ってはいないことは伝わってきますが、満男選手はもちろん憮然とした表情のまま無言で行き過ぎます。

　交代直後の森島選手は、前線に走り込みながらパスを受け、柳沢選手にいいボールを通して、ここから日本ペースになるかと思われますが、日本のパスミスもあって、その後、ペースを握れません。逆に、コスタリカがボールを持つ時間が増えていきます。

　26分には、また交代選手が呼ばれます。西澤選手のようです。

　ベンチの一番外側の端に、青いジャージを着て座った満男選手は、タオルで顔を拭い、ピッチの方に顔を向けています。表情は一見、呑気そうにも見え、気持ちを読みとることはできません。満男選手の隣には、俊輔選手が座っています。

　日本は、満男選手が左サイドの低い位置をカバーするようになってからは、入れられてなかった左サイドからのクロスを、また上げられるようになっています。

　28分、柳沢選手が西澤選手と交代します。柳沢選手は、ベンチに顔を向けず、真っ直ぐロッカールームに引き上げていきます。

　30分、ベンチでタオルを持ったまま、時にタオルで汗を拭いながら、体を前屈みにしてピッチを見つめる満男選手。やはり、表情は普段と変わりありません。

　俊輔選手と満男選手のあいだの空いていた席に、アップから帰ってきた曽ヶ端選手が座ります。

　42分、コスタリカが日本の右から崩してシュートを放ちます。

　ロスタイムは1分です。

　前半終了のホイッスルが鳴ると、満男選手はすぐに席を立ち、ベンチの後ろ側に回ると、ロッカールームに引き上げていきます。片手にタオルを持ち、しっかりと上げた顔には、憮然とした表情を浮かべています。

　ハーフタイム、福西選手がアップをしています。後半開始時に、右サイドの市川選手と、福西選手が交代。福西選手がボランチに入り、明神選手が右に回ります。

　後半3分、グレーのジャージに着替た満男選手は、柳沢選手と一つ飛ばしの席で、一番コーチに近い側に座って腕組みして試合を見ています。

　後半になって、ようやく日本はリズムを取り戻します。

　6分、コスタリカの巧いパス回しから、左サイドの三都主選手が抜かれてつながれ、ペナルティエリアに入った選手を中田浩二選手が足をかけて倒してPK。前半から不安定だった、左サイドの守備に決定的な綻びが出ます。このPKは、コスタリカの選手のミスキックに救われます。ど真ん中低い位置に飛んだボールを楢崎選手が足でセーブします。

　途中でゴールネットが外れて、補修するハプニングで、しばらく試合が中断します。

　24分、右サイドの明神選手が振り向きざまに上げたクロスが、明らかなミスキック。これが、偶然、GKの頭を越してゴール左隅に入り、日本、ラッキーな先制点を上げます。

　30分頃から、スタジアムには俊輔コールが響きます。コスタリカも、何人かの選手を変え、日本サイドでは、服部選手が交代の用意をします。

　31分、右サイドに途中交代で入ったパークス選手にきれいに抜かれて、日本は同点に追いつかれます。

　ベンチ前では、波戸選手、俊輔選手が用意します。33分、ベンチ前に来た俊輔選手がジャージを脱いでトルシエ監督の前に進みます。満男選手は、俊輔選手が目の前を通り過ぎるのを見計らって、行って来いと言うように、ぱしっと強く腕を叩きます。

　34分、失点前に用意をしていた服部選手が、そのまま、三都主選手と交代でピッチに送り出されます。トルシエ監督は、得点差に応じた選手交代をする気はないようです。そして、少しして、波戸選手が明神選手に代わって入ります。36分、今度は宮本選手に代わって俊輔選手が入ります。俊輔選手が交代の準備を始める前から、俊輔コールを続けていたスタンドは、大きく沸きます。どうやら、4バックになるようで、センターバックが松田選手と中田浩二選手になります。中盤がひし形の構成で、前の左に俊輔選手、右に森島選手。アントラーズと同じ、4-4-2のシステムは、満男選手も得意な形でしょう。

　41分、隆行選手に代わり、久保選手が入ります。

　ロスタイムの3分が過ぎ、試合終了。満男選手は、ベンチの裏側から引き上げていきます。柳沢選手と前後して歩いているところに、スタッフが声をかけますが、表情を変えず、言葉も返しません。左手をポケットにつっこんで、憮然とした顔のまま、階段を下りて去って行きます。

　26分という短い時間で、ショッキングな交代を命じられた満男選手。怒りを露わにしないことに、余計に怒りを感じてしまうような、そんな姿でした。