2002/8/7(Wed)

　水曜の夜の駒場スタジアムは満員。レッズならではの、尖った応援を繰り広げるサポーターたちが、サイドスタンドとバックスタンドの1階を埋め尽くしています。

　出島と呼ばれる、隔離されたアントラーズ側のサイドスタンドも真っ赤。狭いスペースに重なり合うように張られた横断幕の中に、白地にカラフルな色でW杯代表選手6人の名前を書き、あちこちにハートマークを飛ばした横断幕が場違いに目立っています。W杯の余韻は、まだまだ冷めないよう。普段の雰囲気が戻ってくるには、もう少し時間がかかりそうです。

　アップで内田選手とパス交換をする満男選手。右足のロングパスの精度がよく、内田選手の足元に、ピタッ、ピタッと収まります。4日前のグランパス戦のアップでは、左右両足とも精度が今ひとつに見えたので、調子が上がってきているのでしょう。ただし、左足の精度は今ひとつで、完調とはいかないようです。

　日は落ちたものの、試合開始時間になっても気温は33℃近い暑さ。といっても、風が吹きぬけているので、京都や豊田での試合よりは、涼しく感じられます。

　アップが終わると、マネージャーの明智さんが、給水のボトルに水をつぎ足します。試合が始まる前から、選手たちの取る水分が多いのでしょう。

　前節のグランパス戦の途中で、肉離れを起こした熊谷選手に代わって、ボランチには本田選手が入ります。アップの途中で、ベンチに入る予定だった野沢選手が、頭痛と吐き気を訴えたらしく、代わりに池内選手が入っています。

　対するレッズは、エメルソン選手が出場停止。前節ゴールを決めた福田選手はケガでベンチにも入っていません。

　コイントスで、ピッチを交換。レッズボールで試合が開始したので、アントラーズが風下を選んだのでしょうか。風は、メインスタンドから見て右から左へと吹いています。

　キック・オフ直後、満男選手はゆっくりとした動き出しを見せますが、本山選手がボールを持つと素早く飛び出していきます。いつも通り、満男選手が右、本山選手が左で試合が始まったのですが、あっという間に、左右が入れ替わります。

　少し慎重な感じの立ち上がりのアントラーズ。2分、レッズの田中達也にサイドを抜かれ、秋田選手がはじき飛ばされて、ゴール前に攻め込まれます。

　満男選手は、守備の時は左に開き、平川選手とマッチアップすることが多いようです。体調不良の山田選手に代わり、レッズの右サイドに入っている平川選手は、小野伸二選手の高校の同級生だそうですが、ロングパスやクロスの精度もよく、いい選手に思えます。

　9分、本山選手がゴールラインまで戻って、激しい守備を見せます。W杯再開直後の試合でスタメンから外された本山選手、危機感があるのでしょうか、守備の意識も高くなってきたようです。

　10分、右サイドで本山選手がボールを持った瞬間に、満男選手は左サイドからDFの裏に走り込みます。満男選手とエウレル選手が右に流れながらスペースを作り、ドリブルで切り込んできた本山選手は、自らシュートを放ちます。この試合、本山選手が持ったときの、満男選手の動き出しが素晴らしく、本山選手に使われる動きを意識的にやっていることが見て取れます。

　14分、右サイドで、鈴木啓太選手を背にボールを受けた満男選手は、反転して股抜き。ボールをキープすると、名良橋選手にパスを出します。

　セレーゾ監督が本山選手を呼んで、指示を出します。斜め後ろを指さしているところをを見ると、守備のことのよう。この試合、セレーゾ監督の指示は、ファビアーノ選手やバックラインに対するものが多く、満男選手に対しては、全く指示がなかったようです。

　トゥット選手の応援歌はミッキーマウスマーチ。去年くらいまで歌われていた満男選手の応援歌と同じです。レッズサポーターが、繰り返しこの歌を歌うたびに、満男選手が応援されているような錯覚に陥ります。

　22分、ハーフラインのやや前の左寄りから、DFの裏に抜けようとする柳沢選手にピッタリのロングパスを出した満男選手。クリアボールがこぼれるところに、後ろから思い切り走り込むと、ダイレクトでシュートを放ちます。低く抑えたいいシュートですが、わずかにバーの上を越えます。

　アントラーズが優勢に試合を進める中で、レッズもカウンターから、何回かチャンスを作ります。26分、レッズのCKからのヘディングを、曽ヶ端選手が至近距離で防ぎます。ナイスプレーです。

　28分、右サイドでボールを持ち、路木選手と1対1になった満男選手。路木選手が倒れてファールを取られます。自分のユニフォームを右手で引っ張りながら、引っ張られたことを主審にアピール。認められないと、すぐ側で見ていた副審に向かって訴えかけます。冷静な表情ですが、ジャッジのミスを黙ってはいられないのでしょう。

　30分、攻め込まれ、ゴール正面で、レッズの選手がフリーでボールを受けたところに、猛然とダッシュして突っ込んでいく満男選手。主審の背中に激突して、もんどり打って倒れます。審判の動きが、自分の予測と違っていたのでしょう。この少し前には、相手ゴール前でクロスを待っていて、走り込んでいたエウレル選手にぶつかられ倒されてた満男選手。今日は、相手選手以外との衝突が多いようです。この時には、エウレル選手が、驚きながら助け起こしてくれていました。

　この時間帯、アントラーズは立て続けにピンチを迎えますが、なんとかしのいでいます。本山選手が痛むと、満男選手は、試合再開にならないかと、何回も振り返りながらラインに向かい、トレーナーさんにボトルを手渡してもらって慌ただしく給水します。ひどく苦しげな表情です。

　でも、34分に、CKに向かう足取りは軽く、これまでの試合よりもコンディションがよさそうに思えます。

　ロスタイム1分が経過して、前半終了。上がって行く満男選手に、関ドクターが近づいて声を掛け、軽く背中を叩きます。体調を心配しいるのでしょうか。

　後半開始前くらいから、風が少し強めになって、涼しさを感じるようになります。

　フィールドに出てきた満男選手に、すれ違いざまに、サブの内田選手、青木選手、長谷川選手が声を掛け、タッチを交わします。

　アントラーズボールで後半が始まります。

　前半終了間際に満男選手をアフターチャージで倒した鈴木啓太選手、ハーフタイムに指示を受けたのか、後半になって、さらに満男選手を意識してマークしているようです。

　後半1分。中田選手が落としたボールを、半身で振り返りながら胸トラップした満男選手は、右足のボレーで本山選手にパスを送ります。本山選手は完全にDFラインから抜け出しますが、パスはわずかに長く、GKがキャッチします。

　4分のコーナーはショートコーナーに。この試合、前半も含めてショートコーナーを多用する満男選手。コンディションの問題なのでしょうか。6分の左CKもショートコーナー。アウグスト選手から返されたボールを、右足の外側でボレーで蹴り、見事にコントロールしたボールをゴール前に送ります。

　10分、アリソン選手をライン際に追いつめて背後からボールを奪おうとする満男選手。ボールがラインを割って、即座にスローインしますが、レッズボールの判定で主審はプレーのやり直しを指示。満男選手は、レッズサポーターから、大きなブーイングを受けます。

　14分、自陣でのファール。ファビアーノ選手が素早くリスタートします。これを受けた満男選手は、すぐにパスを出しますが、主審はポイントが違っているとやり直しを指示。満男選手は、この判定に、ジェスチャーで強く抗議。この様子に、レッズサポーターから、またブーイングが起きます。

　前半は、シュートシーンも多く、緊張感のあるいいゲームだったのですが、後半になってレッズのミスが目立ってきています。15分、エウレル選手、アウグスト選手とつないで、アウグスト選手が、ゴール直前で柳沢選手にパス。フリーでゴール前に入ってきた柳沢選手が決めて先制です。ここ何試合か、期待を込めたコールをサポーターから受け続けていた柳沢選手の、待望の得点です。

　笑顔の選手たち。満男選手も、ハーフラインの辺りから、ゆっくりと柳沢選手に近づいていきます。本田選手と、満男選手は抱き合って、喜び合います。真ん中まで戻ってきた柳沢選手と、満男選手はタッチを交わします。

　このあと、試合はアントラーズペースで進んでいきます。23分、本田選手からの短い横パスを受けた満男選手は、ワンタッチでファーサイドの本山選手にパス。本山選手が折り返したボールを柳沢選手がシュート。ボールはGKにキャッチされましたが、テンポの速い、いい攻撃です。

　26分、鈴木選手へのパスを、素早い動きで飛び込み、奪う満男選手。1点をリードして、満男選手の位置は低めになっていますが、後半のこの時間になっても、ここぞというポイントでは、しっかりと体が動いています。

　30分、レッズが動きます。石井選手に代えて、山田選手が入ります。

　32分には、田中選手からのパスにトゥット選手が抜け出してGKと1対1に。曽ヶ端選手がうまくボールを押さえ事なきを得ます。

　暑さで、全身からかく汗の量も半端ではないのでしょう。柳沢選手は、プレー中にまで給水をしています。

　足を痛めたらしい本山選手ですが、この時間になっても、衰えないプレーを見せます。33分、左サイドを抜けてセンタリング。エウレル選手のダイビングヘッドは、惜しくもバーの外側です。

　そして、その直後、再びドリブルで上がった本山選手が、今度はペナルティエリアの中に切れ込み、DFに倒されます。PKかと思った瞬間、こぼれたボールをエウレル選手が蹴り込んでゴール。2点目です。

　エウレル選手の派手なガッツポーズ。満男選手は、祝福に行く余裕もないらしく、険しい表情でラインの方に近づいてきて水を飲みます。

　この直後、本山選手は青木選手と交代。3ボランチになり、真ん中に本田選手、右に青木選手、左に中田選手が入ります。

　レッズも選手を代えてきます。

　40分には、秋田選手が内田選手と交代。ファビアーノ選手が右CBに回り、中田選手がバックラインに。内田選手は左サイドに入り、アウグスト選手が左ボランチになります。

　アントラーズは引いてしっかりと守り、ゆっくりとボールを回します。

　ロスタイムは3分。エウレル選手に代わって、前節、試合終了間際に痛み、担架で運び出された長谷川選手が入ります。どうやら、大きなケガではなかったようです。

　ロスタイムに入って、高い位置で相手ボールを取りにいった満男選手は、すぐ前にいた選手に絡まって倒れてしまいます。そのまま、どこか痛めたのか、立ちあがることができません。プレーは続行され、しばらく経ってから、ようやく満男選手は立ち上がります。

　その直後にホイッスルが吹かれ、試合終了。満男選手は、その場で、かがみ込みます。体力を使い果たしているのでしょう。膝に手を当てて、動くことができません。少し経って、さっき痛めたところでしょうか、右手で、右膝の内側を軽く触ります。そして、両方のストッキングを下げると、歩き始めます。

　途中交代で出てきた阿部選手と軽く声を交わし、人なつっこく声を掛けてくる永井選手に挨拶して、サポーターのいるサイドスタンドに向かって歩く満男選手の表情は、険しく苦しそうです。真夏の連戦は、まだ続きます。次は、また4日後。1stステージの優勝を狙うF・マリノスとの試合です。

（バックスタンドにて観戦）