2002/8/11(Sun)

　カッと真夏の日差しが照りつけ、気温も35℃以上にまで上がっていた鹿嶋ですが、夕方5時半頃になって、急に涼しい風が吹き始めます。30分もしないうちに肌寒くなり、遠くの風景が霞んできます。2週間前のヴィッセル戦にひき続いての、霧になりそうです。

　今日の相手のF・マリノスは、前節まで首位。昨日、1日早く行われた試合で、優勝を争っているジュビロが勝ったため、1ポイント差で暫定の2位になっているものの、この試合と、次の最終節を勝てば自力優勝。高いモチベーションで、臨んでくることが予想されます。

　霧は、雲が下りてくるかのように、徐々に濃くなり、2階席の大屋根に取り付けられた照明の光がにじんできます。

　6時50分、大スクリーンにジーコさんの懐かしい映像が映し出されます。ヴァンゲリスのFIFAアンセムの流れる中、ジーコさんが登場。大きな拍手の中、スタンドの4方に向かって手を上げ、頭を下げて、ゆっくりと挨拶をします。牛島社長からの花束贈呈。アントラーズのユニフォームを着た子どもたちから、寄せ書きが渡され、エジソン土井さんの通訳で、ジーコさんは話し始めます。アントラーズにいた11年間、とても幸せだったこと。そして、その同じ幸せを、今度は日本の代表監督として得たいということ。挨拶が終わると、スタンドから大きな拍手とジーココールが巻き起こります。

　「ジーコ!　ジーコ!　ジーコ!!」「ジーコ!　ジーコ!　ジーコ!!」。真っ赤に染まったホーム側のサイドスタンドからの大きな声。3万2千人の観客でいっぱいになったスタンドでは、小旗もあちこちで振られています。そして、2/3ほどが埋まった、アウエイ、F・マリノス側のスタンドの青いサポーターたちも、アントラーズのサポーターに合わせてジーココールをしています。アントラーズのジーコから、日本のジーコへ。それを象徴的に感じさせる光景です。

　霧は、ますます深くなり、ピッチの上も霞んでいます。

　応援セレモニーと入れ替わりに、メインスタンド下で入場を待つ選手たちの中で、満男選手は、まるで気合いを入れるように、両手の拳で腰の辺りを何回も何回も叩いています。

　霧の中、出てきた満男選手は、真っ先に両手で芝に触って感触を確かめます。湿気を含んだひんやりとした空気で、芝が湿っているのでしょうか。

　この試合、アントラーズは右ふくらはぎの肉離れの熊谷選手が欠場。F・マリノスは、前節をケガで欠場した奥選手が、強行出場してきています。

　アントラーズのボールでキックオフ。ホイッスルが吹かれると同時に、アントラーズの選手たちは、ものすごい出足で前に進みます。暑さの中、慎重な立ち上がりだった前節とはまるで違うスピードです。霧のおかげで気温が10℃以上下がったこともあるのでしょうが、優勝を狙うチームとの対戦、そして、ジーコさんの壮行式のあとの、モチベーションの高さを感じさせます。

　開始早々にスライディングタックルを見せた満男選手も、相手ボールを追って、ペナルティエリアの中まで飛び込んでいきます。

　エウレル選手、柳沢選手、そしてF・マリノスの清水選手のミドルと立て続けのシュート。目まぐるしいほど攻守の切り替わりの早い展開です。

　3分、左に開いた満男選手は、右サイドで本山選手がドゥトラ選手の守備に入り、うまくアントラーズボールにしたところで、首を傾けて、何か考えている様子です。

　5分、ペナルティエリア内に入ろうとする奥選手の足元にスライディング。うまくボールを奪います。

　10分くらいで、試合は、いったん落ち着いたかに見えたのですが、また目まぐるしく展開していきます。

　14分には、中田選手の左足の豪快なシュートがバーに嫌われます。

　ここまで、いつも通りに、頻繁に左右のポジションチェンジをしてきた満男選手と本山選手。15分辺りから、満男選手は右にいることが多くなります。相手左サイドで、攻撃の起点になっているドゥトラ選手の対応を考えてのことのようです。

　20分、満男選手は、横パスを受けて、右から中に切れ込むと左足でミドルシュートを放ちますが、やや力無く、榎本選手にキャッチされます。

　24分、DFのクリアボールに飛び込んで、30メートルくらいのところから、右足でミドルシュート。これは強いボールだったのですが、惜しくも前の選手に当たってしまいます。

　25分、奥選手がパスを受けるところを狙った満男選手、うまく奪うと、本田選手にパス。エウレル選手、柳沢選手と素早くパスがつながりますが、柳沢選手がトラップをミス、シュートになりません。攻守の切り替えの早い展開。特に、アントラーズのプレスはよく効き、ペースを握っています。

　36分、曽ヶ端選手のフィードを満男選手がヘッドですらして、エウレル選手へ。エウレル選手がドリブルで持ち込んでシュート。少ないタッチ数でチャンスを作ります。後ろから来たボールを、満男選手がヘッドですらせるパターンは、この試合、ほかのシーンでも見られ、いい効果を上げていました。

　このあと、右サイドにいた本山選手が、清水選手にドリブルで抜かれ、カバーに来た満男選手も、抜かれてしまいます。もっと上がって対応してくれと、ファビアーノ選手にジェスチャーで示す満男選手。ファビアーノ選手が対応して、いったんはクリアしたのですが、ドゥトラ選手にボールが渡り、ゴールラインまで切れ込まれてしまいます。追いかけて対応する満男選手とファビアーノ選手。ドゥトラ選手のクロスがラインを割ると、ファビアーノ選手は、強い調子で満男選手に何やら言っています。

　37分、中田選手のシュートが、味方に当たって方向が変わり、ポストに跳ね返されてしまいます。

　ドゥトラ選手の対応には苦労しているアントラーズですが、ウィル選手に対しては、秋田選手、ファビアーノ選手がしっかりとマークし、ウィル選手に、ほとんど、ボールに触らせません。40分過ぎくらいに、F・マリノスに、続けて攻め込まれますが、失点を押さえ、前半は、アントラーズペースのままで終わります。

　霧は、少しずつ濃くなっていくようですが、ヴィッセル戦の時ほどではなく、プレーに支障をきたすことはなさそうです。

　後半の開始前に、本山選手が満男選手に何か話しかけながら歩いてきます。満男選手も、右サイドの前の方を指さして、何か応えています。

　開始早々、満男選手は本田選手とマークの受け渡しをしながらドゥトラ選手に対応します。ハーフタイムで指示があったのでしょうか、後半、このあとも、満男選手は右サイドにいることが多く、ドゥトラ選手を意識しているようです。

　後半1分、右の満男選手が横パスを受けると、ファーサイド、ゴール前に走り込む本山選手にワンタッチでパス。本山選手は、右の柳沢選手に落とします。GKにキャッチされましたが、レッズ戦の時にも見られた3人のコンビネーション。とてもいい感じになってきているようです。

　ただ、満男選手は、このプレーにも満足できないのか、GKの榎本選手が痛んでいるあいだに、本山選手に、ゴールの方を指さして何か伝えています。

　F・マリノスは、中央で突破することが増え、アントラーズのゴールに迫ります。

　4分、アントラーズの攻撃から、F・マリノスのカウンターになると、満男選手はダッシュで戻って、清水選手を遅らせます。すごい瞬発力です。

　前半から飛ばしてきて、やはり疲れが出ているのでしょうか、攻め上がってボールを奪われ、守備に戻る時に、満男選手は、一瞬下を向きます。

　7分、清水選手がペナルティエリア内で倒されます。PKかと思ったのですが、清水選手のハンドの判定。アントラーズは助かります。

　そして、この直後、右サイドの本山選手からの鋭いクロスが、柳沢選手の頭を越えたところを、詰めてきたアウグスト選手がゴールに押し込みます。アントラーズ、先制です。自陣にいた満男選手は、その場に立ち止まったままで拍手します。喜び合いに走って行くには疲れすぎているのでしょう。後ろからファビアーノ選手がやってきて、抱き合って喜びます。

　ゴールの時、ポストに激突したアウグスト選手。肩を痛めたのか、担架で外に出されます。満男選手はエウレル選手に向かって、前の方を指さしながら、強い調子で何か言います。アウグスト選手がいないことを確認しているのでしょうか。試合が再開すると、エウレル選手は、GKのところまでチェイシングに行きます。相手の攻撃を遅らせるためでしょう。左サイドには中田選手が入り、満男選手が左のボランチの位置に下がって、アントラーズはゆっくりとパスを回して、アウグスト選手が戻るのを待ちます。

　F・マリノスは、この試合を失えば、自力優勝がなくなります。必死で攻めてくる奥選手のシュートは、枠を外れます。

　13分、自陣中央でボールを持った満男選手は、目の前に来る選手を1人股抜きで交わし、前に進みますが、ボールを奪われてしまいます。ここで本田選手が、ボールを奪い返しに行きファール。ゴール前でのF・マリノスのFKになります。

　壁の中の小競り合いの後、ウィル選手が蹴ったボールを、曽ヶ端選手はパンチング。こぼれたところを取りにいった曽ヶ端選手に、ドゥトラ選手が足からスライディングします。顔を蹴られて、向かっていく曽ヶ端選手。怒って飛んでくる選手たちと、押しとどめようとする選手たち10人くらいが入り乱れて、騒然とします。

　そこに、はるか後ろから走ってきて体当たりするナザ選手。満男選手は、ナザ選手に駈け寄って、押しとどめようとします。秋田選手やアウグスト選手と一緒に、ナザ選手を引き離すと、副審のところに行って、指さしながら話します。主審は、ドゥトラ選手にイエローカードを出します。副審に相手にされなかった満男選手は、主審のところにも話しに行きます。ナザ選手にもカードを出すべきだという主張でしょうか。いつものことだけど、判定の間違いは、正さないと気のすまない満男選手。顔も、普段通り冷静なものです。

　試合再開後、右サイドに流れてくる本山選手。満男選手は、ドゥトラ選手を気にしてか、右寄りにいます。17分、その2人が縦の関係になって、いい攻撃をしかけます。右のライン際でクリアボールを受けた本山選手は、ヘッドで後ろの満男選手に落とすと、動き出します。満男選手は、前に走り込む本山選手にワンタッチでリターンパス。本山選手の頭を越えて、ピッタリと走り込むところに落ちたボールを拾って、本山選手はドリブルで上がります。大きなチャンスになったのですが、本山選手は、シュートに持ち込めませんでした。

　満男選手は、疲れが出ているのか、相手選手をファールで止めることが増えてきます。1点を先制して、アントラーズもスローペースで試合を運びます。

　22分、松田選手を倒した柳沢選手がファールを取られます。ボールを拾うと、ポイントにポンと短く投げ返す柳沢選手。主審がホイッスルを吹き、イエローカードを出します。遅延行為と取られてしまったのです。これが今季3枚目のイエローカード、次節が出場停止になってしまう柳沢選手は、その場に崩れ落ちてしまいます。これは、本人も見ている方も納得のいかないカードです。

　24分、左サイド、深いところで、波戸選手に対応した満男選手は、腕が絡まり合うような形になり、倒してしまいます。これがファールを取られてしまい、ゴール間近でF・マリノスのFK。このFKは曽ヶ端選手がパンチングで逃れますが、続くCKから、フリーになったナザ選手に、ゴールを決められてしまいます。

　同点になったところで、柳沢選手が青木選手に代わります。本山選手が給水にライン際に行ってしまったせいか、センターサークルの中央には、満男選手とエウレル選手が入って、ゲームが再開になります。

　青木選手は、右のボランチに入り、中央に本田選手、左に中田選手の3ボランチ。本山選手がFWに上がり、満男選手がトップ下の布陣に変わったようです。

　試合再開直後、高く上がったボールに、競りながらジャンプした満男選手は、相手の背中に乗るような形になって頭から地面に落ち、うずくまると、そのまま動けなくなります。主審はそれに気づいて大きく満男選手を指さしますが、プレーを切ろうとはしません。頭を抱える満男選手。大げさに痛がるのは大嫌いという満男選手。全然動けなくなっているのは、大きなケガか、脳しんとうを起こしているのかもしれません。

　アントラーズの選手は、大きく手を上げて、プレーを止めるように要求しますが、F・マリノスの選手は、プレーを切りません。サイドに流れたウィル選手がパスを受け、攻め上がろうとするところを、アウグスト選手が突き飛ばして、ようやくプレーが切れます。ウィル選手と一緒に倒れたアウグスト選手は、必死に満男選手を指さしながら起きあがります。F・マリノスの選手は、アウグスト選手のプレーに対する抗議で主審に詰め寄りますが、満男選手はまだ起きあがることが出来ずにいます。

　頭を押さえながら体を起こす満男選手。痛そうに顔をしかめながら、立ち上がりますが、立ち上がっても、まだ頭を押さえてボーっとした感じです。F・マリノスの遠藤選手が、気にして声を掛けます。プレーが始まっても、しばらく頭を押さえていた満男選手ですが、その後は、痛みが去ったのか、全く気にしなくなります。

　29分、中澤選手のハンドの判定。ペナルティアーク内からのFK、満男選手は、ボールを何回もセットします。近い距離からで、かえって打ちにくいのでしょう、徐々にボールを下げているようです。それに合わせるように、壁も少しずつ前に動きます。満男選手の蹴ったボールは、狙ったかのように、壁に当たって、もう一度帰ってきます。そのボールに思いっきり右足を振り抜いた満男選手。ボールは惜しくもポストの左にそれてしまいます。

　その直後の、ゴールキックから、F・マリノスのDFラインでのボール回し。ドゥトラ選手からのパスを、軽く戻そうとしたナザ選手の足元を、本山選手は狙っていました。パスカットすると、角度のないところから右足を振り抜いてシュート。見事なゴールで、アントラーズが勝ち越します。

　コーナーフラッグを殴って喜びを表す本山選手。アウグスト選手、中田選手、秋田選手など、次々と本山選手に駈け寄る中で、満男選手もトコトコと本山選手の方に駈け出します。ありがとうと一言、声を掛けたいと思っているように見えます。

　33分には、F・マリノスが上野選手に代えて久永選手を入れます。中央寄りにポジションを変えるドゥトラ選手。本田選手が、満男選手に声を掛けます。

　34分、F・マリノスの選手が痛んでプレーが止まると、満男選手は、小走りに給水に走ります。その姿を見て、ボトルを持って、走って来るセレーゾ監督。何か指示を出すのかと思ったら、そうではなく、着いてきた通訳の鈴木さんも黙っています。満男選手が、気力で走っていることを、セレーゾ監督も感じているのでしょう。ピッチに戻ろうとする満男選手に、一言だけ声を掛けます。

　高い位置からプレスを掛け続けるアントラーズですが、満男選手は、あまり上がりません。しっかりと守備をすることを心がけているようです。

　38分には、右太ももの裏側を痛めていたという本山選手が、崩れるようにピッチに倒れたきり立ち上がれなくなります。プレーが切れると、本山選手は、自力でピッチを出て、そのままロッカールームの方に去って行きます。1人少なくなるアントラーズ。満男選手は、本山選手がピッチを去るのを、気にして見ています。

　本山選手に代わって入ったのは、内田選手。左サイドバックの位置に入り、アウグスト選手がポジションを上げます。まるでFWのように、ゴールライン近くまで、ボールをキープしようと走るアウグスト選手です。

　満男選手は、左サイドの深い位置、ゴールラインまで相手を追って守備をします。

　42分には、清水選手の際どいシュートが枠を外れます。満男選手は、ベンチに指示を受けているようです。あまり下がらないよう言われたのか、満男選手のポジションが、少し高くなります。

　44分には、エウレル選手に代わって、長谷川選手が入ります。ロスタイムは4分。攻め込むF・マリノス。右サイドの深い位置からクロスを上げようとする久永選手の足元から、満男選手はするりとボールを奪います。

　守備に走り回る満男選手、自陣深いところ、スライディングタックルで、うまくボールを奪い味方につなぎます。

　この時間になって、F・マリノスは、安永選手を投入してきます。

　守備に戻った満男選手は、上がって行くことができません。攻撃になると、交代で入った青木選手、内田選手、長谷川選手が、攻め上がっていきます。

　ホイッスルが鳴って試合終了。自陣中央にいた満男選手は、その場で足をそろえてうずくまると、ゴロンと後ろに倒れ込みます。しばらく寝転がっている満男選手。名良橋選手が来て、声を掛けますが、立ち上がることができません。アウグスト選手がやってきて、引っ張り上げて立たせてくれます。

　バックスタンドと、サイドスタンドに、満男選手は、辛そうな顔で、軽く足を引きずるようなぎこちない歩き方で歩いていきます。挨拶する選手たちに、サポーターからは、大声援が飛びます。

　今年の1stは、なかなか調子の上がらなかったアントラーズ。F・マリノスという、いい対戦相手と、涼しい気候に恵まれて、次への指標となるようないい試合ができました。2ndステージが楽しみ。そう思える内容のあるゲームでした。