2002/9/7(Sat)

　前日から降ったり止んだりしていた雨が、ピッチをスリッピーにしています。試合直前、ピッチに散った満男選手は状態を確かめるように、グラウンダーのパスを蹴ります。

　日本の「クラシコ」と表現される、アントラーズ対ジュビロ戦。わずか3日前のナビスコカップ準々決勝に続く対戦です。スタジアムに詰めかけた観客の数は、3万4千人。試合直前まで降っていた小雨に、サポーターは、赤や透明のカッパを着込んでいますが、試合開始の時間には、雨は上がっています。

　ぎっしりと、赤く染まった、ホーム側のサイドスタンド。お馴染みの最前列にずらりと並んだ大きな旗は、水をたっぷりと含んで重そうです。アウエイ側は、1/2の区画がロープで区切られ、サックスブルーのジュビロサポーターが、詰め込まれています。ホーム側のスタンドに入りきれず、アウエイ側に回ったアントラーズのサポーターは、ホームの応援に声を合わせ、手拍子を送ります。

　8月のグランパス戦で、Jリーグ100試合出場を果たした熊谷選手に、花束が贈られます。その試合で、ケガをした熊谷選手。ケガは、まだ治りきっていないらしく、今日はベンチスタートです。

　サポーターからの小笠原コールに、大きく片手を上げた満男選手。ジュビロの選手を横目で確認するように見ながら、円陣に小走りに向かいます。雨のせいもあって涼しく、柳沢選手は長袖のユニフォームを着ています。
　ジュビロのGKは、レギュラーのヴァンズアム選手ではなく、リーグ戦3戦目の出場となる山本正浩選手。休養もかねて、3日前の試合を欠場した高原選手が、スタメンに戻っています。

　その試合を、エウレル選手の2得点で勝ち、ジュビロの3冠の夢を砕いたアントラーズですが、激戦の中で、ファビアーノ選手が負傷退場、満男選手も左足首のケガの影響もあってか途中交代でした。ファビアーノ選手の替わりになる、CBの金古選手、羽田選手はケガで長期離脱中。代理の池内選手も、足の付け根の違和感で万全ではなく厳しい状況です。8月末に肉離れで離脱、3日前の試合で復帰したばかりのエウレル選手も、完調なのかどうか気がかりなところです。

　アントラーズのスターティングメンバーは、GK曽ヶ端選手。DF名良橋選手、秋田選手、池内選手、アウグスト選手。MF本田選手、中田選手、満男選手、本山選手。FW柳沢選手、エウレル選手です。

　19時すぎ、アントラーズボールでキックオフ。

　立ち上がりにペースをつかみ、攻め込んでくるジュビロ。高原選手、西選手、中山選手と、立て続けにシュートをはずします。この時間帯、右サイドにポジションを取る満男選手。アントラーズの攻撃は、左が中心で、なかなかボールに絡めません。積極的な守備から、スローインのボールをカット。攻撃につなげます。

　7分、名良橋選手がスライディングでボールを奪うと、右サイドに開いた満男選手に送ります。満男選手は、ドリブルで進みながら前の状況を確認、ハーフライン上から、裏のスペースに、美しいパスを送ります。かろうじてDFが足に当てたボールは、柳沢選手の体に当たって、ゴールラインを割ってしまいますが、素晴らしい攻撃です。満男選手の足の具合は、よくなっているようです。柳沢選手が満男選手に拍手を送ります。

　10分頃、まるで時間を計っていたかのように、満男選手と本山選手がポジションチェンジ。満男選手が左サイドになります。

　アントラーズの最初のシュートは、中田選手。ロングシュートは、やや弱くゴール右に外れます。

　13分、左サイドハーフラインの10メートルくらい後ろで、アウグスト選手からのパスを受けた満男選手。受ける前に、一瞬、前の状況を確認、右サイドのスペースにロングパス。これが見事に通って、本山選手は、ワンタッチでクロスを上げますが、高く上がってしまってDFと競り合った柳沢選手がファールを取られます。プレーが途切れると、柳沢選手は、また満男選手に拍手を送ります。押されているアントラーズは、DFの裏を狙ったロングボールでチャンスをつかもうとしています。

　アントラーズの最初のピッグチャンスは、22分。ジュビロDFのミスから、エウレル選手の目の前にボールがこぼれ、GKと1対1に。決まったと思われたシュートは、バーに嫌われてしまいます。

　この直後、左ライン沿いで、名良橋選手からのパスを前を向いた状態で受けた満男選手。ラインギリギリのボールを前に蹴り、自分はラインの外側を駈け上がって、ジュビロの鈴木選手を抜き去ります。ボールコントロール、スピードと、見事なプレーです。

　エウレル選手にマークの指示を出したり、フリーで手を上げてボールが出てこなければ、プレーが止まってから教えに行ったり、いつも通り、満男選手は周囲の選手とコミュニケーションを取り合っています。

　21分頃、満男選手は右にポジションチェンジします。

　24分、前線の柳沢選手が、巧くコントロールされたパスを満男選手に。満男選手は、ワンタッチで左のエウレル選手に。エウレル選手が、中央に折り返したグラウンダーのパスに、柳沢選手が合わせますが、シュートはバーの上です。満男選手は、思わず体を折るようにして悔しがります。

　このプレーのあと、本山選手と左右を入れ替わった満男選手は、直後に、高く上がったボールを、巧くコントロールして、左のエウレル選手に通します。
　　
　27分、左サイドで、フリーでボールを受けた満男選手。ドリブルで上がり、逆サイドの柳沢選手にパス。柳沢選手は、ペナルティエリア内に入ってシュートを放ちますが、ゴール左です。

　徐々にアントラーズペースになっていますが、アントラーズも得点を奪うことができません。

　曽ヶ端選手のゴールキックを、名良橋選手がいい判断でしゃがんでスルー。本山選手にボールが通って、カウンターのチャンスという時、ジュビロの選手が名良橋選手を倒したことにホイッスルが吹かれてしまいます。主審には、アドバンテージを見る余裕がないようです。ボールを回すジュビロに対して、速攻でゴールを狙うアントラーズ。プレーをブツ切れにする主審は、アントラーズに不利に働きそうな、イヤな予感がします。

　攻め込むアントラーズ。GKがなんとかクリアしたボールが、フリーの満男選手の目の前に来ます。胸トラップした満男選手は、前方の状況をしっかりと見て、GKの頭越しの長いループシュートを放ちますが、バーの上を越え、ゴールネットをかすって地面に落ちます。満男選手らしい、いいシュート。惜しいプレーです。

　32分には、下がり目の満男選手から、右の柳沢選手へ通すいいパスがでます。満男選手の足の具合は、前の試合とは見違えるほどよくなっているようです。

　40分頃、満男選手は、また左サイドに移ります。アウグスト選手は、今日は慎重に上がりを抑えているようです。池内選手は、開始直後から、ロングボールを蹴らず、GKにバックパスしていて、長いボールを蹴るなという指示が出ているように思えます。

　満男選手へのチェックは厳しく、ボールを持ってはファールで倒される場面が目立ちます。倒されて、主審にカードを要求するジェスチャーを見せたりもしています。

　自陣中央でボールを受ける瞬間、左足でボールをうまく扱い、体の向きを変えてDFの逆側に巧くボールをコントロールします。

　ハーフラインの少し前で、右のエウレル選手にパスを出した満男選手は、全力で上がって行きます。エウレル選手が入れたクロスは、1人向こうの本田選手に。シュートが外れて、満男選手は少し残念そうな表情を見せます。

　タックルにも、積極的に入る満男選手。45分、高原選手の持つボールを、体を寄せて奪おうとしてファールを取られ、それは違うというように、主審に向かって右手を大きく振り下ろします。自分では自信のあったプレーなのでしょう、主審に向かって、しつこくはないけれど、はっきりとした抗議をします。

　ロスタイムは1分。0-0のまま、前半は終了します。

　後半開始前、ピッチに出てきた選手たちは、秋田選手を中心にして、お互いに話をしています。

　開始直後、右サイドからの西選手のクロスへのアントラーズのバックラインの対応が、どことなく不安定に見えます。後半2分には、アウグスト選手にイエローカードが出されます。

　ジュビロのシュートに対して、曽ヶ端選手はパンチングで逃れることが、普段より多いようです。試合開始から、雨は全く降っていませんが、湿ったピッチの影響で、ボールが滑るのでしょう。

　4分、柳沢選手が本山選手からのパスをボレーシュートしますが、枠を外します。

　名良橋選手が倒されファール。FKを蹴ろうとする曽ヶ端選手に、満男選手は、フリーの選手に、すぐにパスを出すように大きなジェスチャーで指示を送ります。それに気づかず、ゆっくりとボールを蹴ろうとする曽ヶ端選手に、満男選手は、大きく手を振り下ろし残念がります。

　5分、西選手に出たボールに、満男選手は、全力でカバーに走りますが、切り返しで外され、その後、アウグスト選手も交わされて、直接ゴールを叩き込まれ、絶対に許したくなかった先制点を奪われてしまいます。

　1点を追いかけるアントラーズ、7分、満男選手のスペースへのパスに、全速力で追いつこうとしたエウレル選手が、GKと交錯してしまい、その瞬間、自分から手を上げて負傷を告げます。担架で運び出されるエウレル選手。ベンチには、すぐに内田選手が呼ばれます。内田選手は、慌ただしく左サイドに入り、アウグスト選手が2列目に。本山選手がFWに入ります。2列目は、満男選手が右、アウグスト選手が左になります。

　12分、満男選手は、ゴールの25メートルくらい前からシュートを放ちますが、DFに当たってボールが高く上がります。そのボールの落下点での、相手選手と競り合い。背中で相手を押すような形ですが、相手を倒したわけでもないのにホイッスルが鳴らされファール。満男選手は、明らかに不服そうな表情を見せ、大きく手を広げて、主審に抗議します。

　13分、右サイドでボールを持った満男選手は、本山選手を裏に走らせるロングパスを出しますが、GKにキャッチされてしまいます。

　14分、服部選手が満男選手を後ろから倒してファール。満男選手は、仰向けに倒れたまま、左ひざの辺りを押さえます。

　15分、ジュビロのFK。ボールを蹴ったジュビロに、主審は、蹴り直しを命じます。その間に、FKを蹴る名波選手が、水を飲みに行ってしまいます。明らかな時間稼ぎ。主審は、これに何の注意も与えません。満男選手は、梅本主審に、腕時計を指さすジェスチャーで話しかけます。

　16分、本山選手とのワンツーで、柳沢選手が放ったシュートは、DFに当たってしまいます。

　長谷川選手と青木選手がベンチ前に呼ばれます。

　19分、バックラインでボールを回すジュビロに、アントラーズは、なかなかプレスをかけられません。満男選手はアントラーズのバックラインに、押し上げるようにジェスチャーします。しばらくして、藤田選手のシュートでプレーが止まると、満男選手は、秋田選手のところまで走って行きます。さっきの押し上げの話でしょうか、満男選手の言葉を秋田選手も、納得して聞いているようです。主審には、苛立った表情を見せている満男選手ですが、伝えなければならないことはキッチリ伝え、冷静な頭でプレーしているようです。

　ピッチを動き回り、ボールをさばこうとする満男選手に、ジュビロは、厳しいチェックをしてきます。20分、左サイドで、ジャンプした満男選手を、福西選手が後ろから倒しファール。危険なプレーに見えますが、カードは出ません。
　高原選手がアントラーズの選手と交錯して倒れますが、主審はホイッスルを吹きません。プレーが止まって、ジュビロの選手は、副審に詰めより抗議します。高原選手は、倒れたまま痛がり続けていますが、副審との話が終わって、主審が近づいてくると、体を起こします。これも、時間稼ぎでしょうか。離れたところにいた満男選手は、高原選手がなかなか立ち上がらないのを見て、主審に近づいていき、軽く背中を叩きながら、担架で外に出すよう話しかけますが、梅本さんは、シッシと追い払うようなジェスチャーをするだけです。それでも、主審に話しかける満男選手。結局、担架は入れられないままに、プレー再開となります。担架で出すか、時間稼ぎでイエローカードを出すかしかない場面、主審のあいまいな判定に、アントラーズの選手の苛立ちが目立ちます。

　25分、本田選手に代わって青木選手が入ります。3日前の試合で、いい動きを見せてくれた青木選手にセレーゾ監督も期待をしているのでしょう。

　26分、相手選手を倒し、中田選手にイエローカードが出ます。そして、池内選手に代わって、長谷川選手が入ります。池内選手は、どうやら足を痛めたようです。CBには中田選手が下がり、本山選手が2列目に下がります。

　自陣、右サイドでボールを持った満男選手のユニフォームを、藤田選手が引っ張って倒します。カードを要求する満男選手。このプレーには、梅本主審もカードを出します。

　30分、満男選手が裏の長谷川選手に出したパスは、オフサイドになります。

　1点を追って、必死で攻めるアントラーズ。アウグスト選手が攻め上がると、満男選手はボランチの位置まで下がっています。

　31分、ペナルティエリアの中、アウグスト選手のクロスを受けようとして、鈴木選手に背中を押されて倒されます。満男選手は、手を上げてファールをアピールしますが、PKになりません。

　35分、西選手に代えて、河村選手が入ります。

　38分、満男選手がピッチ中央からDFの裏に浮かせて出したボールは、長谷川選手が間に合わずGKがキャッチします。

　39分、左からの、満男選手のFKはDFとGKのあいだに飛びますが、GKに直接キャッチされてしまいます。

　40分、藤田選手と金沢選手が交代します。

　攻め急ぐアントラーズ。満男選手は、前線からスライディングタックルにいきますが、ボールを奪えません。ジュビロボールになって、長谷川選手は、名波選手のユニフォームを引っ張って倒し、駈け上がっていきます。大きな衝撃ではなかったはずですが、名波選手はピッチに倒れ続けます。主審にアピールして時間を稼ぐのが目的でしょう。しばらくしてプレーが途切れ、主審がやってきてから、ようやく名波選手は、ゆっくりと体を起こします。

　43分、高原選手が倒れ、ジュビロがボールを出します。プレーが再開され、アントラーズのスローインのボールを、満男選手はタッチラインの外に軽く蹴り、ジュビロに返します。ところが、スローインの場所に行った名波選手は、水を飲み始めます。ボールを渡せずにいるボールボーイに、満男選手は、ボールを早く入れるよう激しく手招きします。この試合のボールボーイは、アントラーズユースの子。アントラーズに勝って欲しいでしょうし、状況もよく分かっていたでしょう。受け取る人がいなくて、少し迷っていた様子ですが、名波選手の足元にボールを投げ入れます。満男選手は、主審に時間稼ぎをアピールします。

　44分、急いで攻め上がろうとしたところを、後ろから足をかけて倒され、FKを得た満男選手。クイックスタートが、目の前の選手に当たります。ホイッスルでプレーを止める主審に、満男選手は激しく抗議。一刻も早くプレーを再開したいと、示されたポイントから、すぐにボールを蹴りますが、プレー再開の指示がまだでやり直し。もどかしくボールを戻した満男選手は、いったん名良橋選手に預けて、すぐにパスをもらうと、ドリブルで前の選手をかわし、強いシュートを放ちます。

　このボールが、DFに当たって名波選手からサイドに開いた高原選手に渡り、ジュビロの絶好のカウンターになってしまいます。前がかりになったアントラーズは、FKのチャンスに上がっていた秋田選手が、前に残ったまま。名良橋選手、中田選手が高原選手にかわされ、シュートを決められてしまいます。

　試合終了直前に2点差。バックスタンドを埋めたアントラーズファンは、ゾロゾロと帰りはじめます。

　ここでロスタイム5分の表示が出されます。

　再開直後のプレーで、左のCKを取ったアントラーズ。満男選手は、今まで見たこともなかったような、ものすごい勢いでコーナーに向かいます。ペナルティエリアの外、本山選手に合わせたCKも、本山選手のシュートはDFに跳ね返されます。

　47分、FKのやり直しを命ずる主審。満男選手も、ほかの選手と、主審に詰め寄ります。

　相手陣内中央で、満男選手がパスを出した瞬間、福西選手が、ボールを奪って駈け出しながら、満男選手の上げた足を払い、満男選手はバランスを失って倒れます。主審はファールを取りません。満男選手は、ピッチを両手で叩いて悔しがります。

　48分、中山選手に代わって、グラウ選手が入ります。

　ロスタイム終了直前、左サイドで、前に進もうとする満男選手に、3人のジュビロの選手が寄ってきます。後ろから、満男選手を押す鈴木選手を、片手で押さえながらボールをキープする満男選手ですが、倒されてしまいます。

　これで得たFKで、アントラーズは最後の攻勢をかけます。満男選手のFKは、秋田選手のすぐ手前で、DFがクリア。アントラーズボールのCKになります。左CK。満男選手が蹴った強く早いボールは、クリアされますが、高く上がったボールは名良橋選手の目の前に。名良橋選手は、叩きつけるようなボレーシュートを放ちます。ジュビロのDFは、反応し足に当てますが、ボールの勢いは止まらずネットの中に。アントラーズ、本当にギリギリで1点を返します。

　早くプレーを再開させようと、自陣に駆け戻るアントラーズの選手たち。でも、このプレーが、最後のワンプレーでした。ジュビロがセンターサークル中央のボールを蹴ると同時に、ホイッスルが吹かれます。その瞬間、がっくりとうつむく満男選手。最後まであきらめない気迫をゴールで証明してもらえて、スタンドの観客は大きな拍手を送っていますが、選手たちの表情は悔しさにあふれています。

　3日前のナビスコカップで勝ったとはいえ、エウレル選手を負傷退場で失ったこの試合は、内容的にもジュビロに勝っていたとはいえません。でも、ピッチを回って観客に挨拶し、サイドスタンドに片手を上げる満男選手の姿は、1stステージにジュビロに負け、がっくりとうつむき、肩を落としていた姿とは全く違うものでした。リーグ開始前のアジアクラブ選手権から負けが立て込み、自信を失っていった1stステージと今は違います。徐々に調子を上げているアントラーズ。セカンドステージは、まだ2試合が終わったばかり。最後の1秒まであきらめない、今日の気持ちを持ち続けてくれれば、結果はついてくるでしょう。