2002/11/30(Sat)

　11月の最終日の暖かな午後。柔らかい西日がピッチの半分に差し込む中、FC東京のサポーターが、「You'll never walk alone」を歌いながらマフラーを掲げます。2002年J1リーグ最終戦。優勝のなくなったアントラーズにとっては、消化ゲームか、天皇杯への練習試合という趣もありますが、この試合に勝てば、初めてのステージ3位になるFC東京は、モチベーションが高いようです。アウェイ側の1階席のほぼ前面を、青と赤のチームカラーを身にまとったサポーターが、点々と埋めています。

　午後2時、選手たちが入場してきます。満男選手は、メインスタンドを見上げると手を振ります。

　前節に続いて、この試合も高円宮様のご逝去を悼んで、黙祷が行われます。コイントスにFC東京が勝って、アントラーズは、前半、西日に向かって責めることになります。

　アントラーズは、前節と同じ4-4-2の布陣。アマラオ選手をケガで欠き、ジャーン選手と加地選手が出場停止のFC東京も、4バックです。

　前線に飛び込む意識の高い満男選手は、開始早々、左からの本山選手のクロスに、ゴール前に入っていきますが、エウレル選手とかぶってしまいます。

　最初のシュートは、FC東京、呉選手が豪快にロングシュートを狙ってきます。

　FC東京の出足のいいプレスに、アントラーズは押され気味。ミスが多くなり、FC東京にパスを回されます。

　5分、ペナルティエリア内でボールをキープして倒され、自ら得た左CK。満男選手のボールは、中田選手の頭にピッタリと合いますが、シュートはエウレル選手の足に当たって、弾き返されてしまいます。このプレー辺りから、少しずつ、アントラーズは、ペースをつかんでいきます。

　12分、柳沢選手のスルーパスが、裏に抜けたエウレル選手に通り、GKと1対1の絶好のチャンス。エウレル選手はボールをうまくミートできず、キャッチされてしまいます。

　14分、右サイドを上がる名良橋選手のクロスに、柳沢選手、エウレル選手、満男選手、アウグスト選手と4人の選手がゴール前に揃います。センタリングは、クリアされてしまいますが、これで右CKを得ます。

　このCK、満男選手の低く速いボールを、秋田選手がヘディングでゴールに叩き込みます。秋田選手は、満男選手とハイタッチで喜び合います。満男選手は、手を叩き、もう一度、集中するようにみんなに促しながら、ハーフラインまで戻ってきます。

　17分、自陣ゴール前、高く上がったボールを満男選手は、精いっぱい飛び上がってヘディングでクリアしようとしますが、これが、ゴールの真ん前に上がってしまいます。福田選手のヘディングシュートは、バーの上に外れ、事なきを得ました。

　徐々に、またFC東京の攻撃が優勢になってきます。満男選手は、浅利選手の足の上に乗ったボールに足を乗せて、なんとか粘ってボールを奪おうとします。

　ここまで、ほとんどの時間、右サイドにいた満男選手、本山選手とポジションチェンジをして、左に流れます。FC東京の右サイドで、テクニックとパワーのあるプレーを見せている石川直宏選手のボールを奪おうと飛び込んだ満男選手。腕で振り払われ、胸を押さえて倒れ込みます。審判にアピールしますがノーファールです。

　1点リードしているアントラーズですが、ミスが目立ちます。

　27分、攻め上がったところ、高く上がったボールに秋田選手が競りに上がってきます。このボールを拾われて、カウンター。3対2の場面でしたが、逆サイドを後ろから駈け上がってきた石川直宏選手のケアができず、フリーでボールが渡って、豪快なシュートを決められてしまいます。前節、前々節に続いて、カウンターからの失点です。

　満男選手は、センターサークルの真ん中に立つと、すぐに試合を再開しようとボールを蹴りますが、主審に止められてしまいます。

　アントラーズは、ゴール前でチャンスを作りますが、なかなかシュートに持ち込むことができません。37分、満男選手から本田選手へのパスも、本田選手がシュートを打ち切れません。

　38分、左サイドの満男選手のサイドチェンジのボールは、大きくクロスを割ります。左手を挙げ、謝る満男選手ですが、珍しいミスキックです。満男選手だけでなく、アントラーズの選手のミスが、相変わらず目立ちます。

　41分、43分と、アントラーズの選手が立て続けにイエローカードを出されます。

　エウレル選手から本山選手へのパスから、アントラーズのチャンス。ゴール前に、エウレル選手、満男選手が走り込みます。柳沢選手へのパスが、オフサイドを取られると、満男選手はファーサイドで大きく手を上げてフリーだったことを示します。

　満男選手へのチェックは、この試合でも激しく、ボールをキープするところ、ケリー選手に軸足を蹴られます。

　攻撃の意識は強く、秋田選手からのロングフィードに、前線に30メートルほどを駈け上がります。

　ロスタイムは1分。左に開いた柳沢選手からのクロス、ゴール前に飛び込んだ本山選手のダイビングヘッドをGKは、かろうじて防ぎます。ここから得た右CK。満男選手が蹴ったところで、前半終了。少し、イライラしているのでしょうか、満男選手は足早にピッチを去ります。

　後半開始前、ピッチに出てきた満男選手は、両ももをしっかりとストレッチします。

　前半は、右にいる時間の方が長かった満男選手ですが、後半開始まもなくから、左サイドに流れます。

　4分、満男選手のいいサイドチェンジのパスが本山選手へ。本山選手からオーバーラップした名良橋選手に繋がり、名良橋選手のセンタリングを、エウレル選手がヘディングシュートしますが、GK正面でキャッチされます。

　ボールをキープする満男選手に2人の選手が来ます。ケリー選手が、今度は満男選手の後ろ頭を殴り、満男選手は頭を押さえて倒れます。

　7分、本田選手が上がっていって攻撃、満男選手はゴール前に飛び込むことなく後ろ目に残っています。そこからのカウンター、ドリブルで上がる石川直宏選手に対応して、攻撃を遅れさせます。

　10分、満男選手は後ろからのパスを、巧みな体の使い方とトラップで2人をかわし、本山選手につなぎます。

　11分、エウレル選手がDFを抜きGKと1対1になりますが、ボールはGKに押さえられます。

　12分、ファビアーノ選手にイエローカードが出されます。

　アントラーズの攻撃、エウレル選手と柳沢選手に4人のDFがつく中、満男選手は前線に飛び込もうとはせず、下がり目でパスを受けます。ハーフタイムに指示があったのか、前半とはポジショニングが変わっています。左サイドの位置で、攻撃時もカウンターに備えた動きを意識しているようです。

　14分、本山選手から柳沢選手にパスが渡り、角度のないところから柳沢選手がシュートを放ちますが、ゴール左にそれます。

　17分、柳沢選手は、ハーフラインからロングシュートを放ちます。大きくゴールを外れますが、前半とは違う、積極的にシュートを打っていこうという姿勢が見えます。

　本山選手が、ボールを持って上がり左に流れても、満男選手は左サイドからポジションを変えません。やはり、何か指示が出ているのでしょうか。アウグスト選手と中田選手を上がらせ、左SBの位置に入ったりもしています。

　低い位置でのアントラーズのFK、クイックスタートのボールを受けた満男選手は、すかさず裏のスペースに長いパスを出しますが、柳沢選手がオフサイドになります。

　21分、名良橋選手の強いロングシュート。GKは、ようやくパンチングで逃れます。

　22分、アントラーズは早い時間に2人を交代させます。柳沢選手と本田選手がアウト、長谷川選手と野沢選手がインです。野沢選手が2列目に入り、満男選手は1つポジションを下げて、中田選手と並んで右ボランチに入ります。

　この交代が、まだ落ち着かないあいだに、石川直宏選手にシュートを放たれますが、曽ヶ端選手がパンチングで逃れます。

　右サイドの満男選手は、左足で、長いパスを逆サイドに出します。これがアウグスト選手に全く合わず、カウンターを食らいます。ゴール前に走り込もうとする馬場選手を、ファビアーノ選手が手で倒して、2枚目のイエローカード。退場になってしまいます。

　10対11の不利な状況。ただ、ここ数試合、攻めの気持ちが強すぎるのか、落ち着かない試合運びのアントラーズ。これでかえって、選手たちの守備の意識が高まり、いい結果を生むかもしれません。

　セレーゾ監督は、即座に本山選手に変え、DFの池内選手を入れます。3バックになったようです。

　ステージ最後の試合で、ここでイエローカードをもらっても、1枚なら、あとに響かないのを計算してなのか、やたらとイエローカードをもらうアントラーズ。秋田選手がカードを出され、立て続けに、池内選手がイエローカードをもらいます。

　ペナルティエリアのギリギリ外からのFC東京のFK。主審に何か言って注意されたのか、アウグスト選手が深々と頭を下げます。

　31分、満男選手は、フリーで上がると、野沢選手からの横パスをシュートしますが、少し弱く、GKにキャッチされます。

　右サイドをドリブルで上がる満男選手。たまらず藤山選手が足をかけて倒し、イエローカードが出されます。このFKは満男選手が蹴ります。

　左サイドからのFKは野沢選手が蹴ります。

　34分、左サイドでアウグスト選手が抜かれてピンチ。全力で守備に戻った満男選手は、馬場選手へのパスを読んでスライディング、巧くカットします。

　FC東京、馬場選手に代わって鈴木規郎選手が入ります。

　10人になりながらも、攻めるアントラーズ。満男選手が、前線に出したパスは、DFがクリアします。ここからの左CKは、野沢選手が蹴ります。

　アントラーズのセットプレーの流れからのカウンター、最後尾で守っていた満男選手は、蹴り込まれたロングボールに全力で走り、相手の前に体を入れながらクリアします。

　37分、自陣で前を向いてボールを持った満男選手は、3人の選手に囲まれながら右足でパスを出しますが、目の前の選手に当たってピンチを招いてしまいます。軽いケガを抱えているのか、それとも1年通じて戦ってきた疲れなのか、今日の満男選手には、ミスが目立ちます。

　左にいたエウレル選手からのパスを受けた満男選手、右にドリブルで進みながら、中央に上がってくる名良橋選手にヒールパス。名良橋選手のシュートは、クリアされてしまいます。

　スタジアムの空が少し暗くなり、照明が灯されます。

　FC東京は、福田選手に替わって、佐藤由起彦を入れてきます。

　勝つために攻るアントラーズ。43分、中田選手からのパスを、いったんは相手に奪われながらも、しつこく追っていった野沢選手。絡め取るように奪ったボールが、名良橋選手の前にこぼれます。名良橋選手は、エウレル選手にマイナス気味の低いクロス。フリーのエウレル選手が、ワンタッチで見事にゴール左上に決め、アントラーズが勝ち越します。

　満男選手が駈け寄ったのは、もちろん野沢選手。野沢選手の頭をなで、名良橋選手と3人で抱き合います。ここで、時間を掛けたい満男選手。ゴール前にいる、エウレル選手の方にも祝福に行き、ゆっくりと自陣に戻ります。

　残りの試合時間は、ロスタイムの3分だけ。これを守り抜けば、アントラーズの勝利です。ベンチから、すかさず指示が送られ、4バックに戻ります。

　プレーが再開すると、満男選手は右のライン沿いでボールをキープします。

　右サイドで石川直宏選手に抜かれ、大きく手を広げた満男選手、全力で守備に戻ります。信じられないくらい守備に走っている満男選手です。

　48分、名良橋選手のロングシュート。シュートで終わらせる攻撃を、選手たちは意識しているようです。コンディションが上がらない様子ながら、守備にも必死のエウレル選手、イエローカードをもらいます。

　曽ヶ端選手のロングキックを野沢選手が落としたところに、すかさず満男選手が詰めていったところで、試合終了のホイッスルが吹かれます。満男選手は、ホッとしたような笑顔を浮かべながら、仲間たちとタッチをかわし合います。

　試合終了の挨拶をしたあと、1人、バックスタンド側のラインに給水に来る満男選手。ピッチには、ホーム最終戦の挨拶のためにマイクが用意されます。ベンチの選手たち、今日、ベンチ入りできなかった選手たちがピッチに出てきます。骨折の治療中の熊谷選手と、今日、足の手術を受けたブラジルから帰国予定の羽田選手以外の、全部の選手が揃ったのでしょう。満男選手はピッチに座り込んでいます。10人になってから、攻撃に守備にと走り回っていた満男選手。すっかり足にきているのでしょう。

　スタッフから渡されたベンチコートを着込んだ満男選手は、出てきた選手たちと声をかわしています。長谷川選手の子供でしょうか、2人の子どもたちを見つけると、笑顔で寄っていって、ちょっかいを出します。男の子の頭を叩き、長谷川選手にしがみつくように隠れるところを、追いかけて行って、逆さに持ち上げたり楽しそうです。

　アントラーズを代表しての挨拶は、来年の続投が決まっていると報じられているセレーゾ監督。サポーターからは、「トニーニョ・セレーゾ」とコールが送られます。

　挨拶が終わって、恒例の場内1周。といっても、昨年・一昨年は、2ndステージを優勝したので、ホーム最終戦のためだけのセレモニーは、3年ぶり。少し寂しい気分にもなります。

　みんなと一緒に歩きながら、満男選手が話しているのは関塚コーチ。指を何本か立ててのジェスチャーは、どうやら、今日の試合についてのよう。満男選手も、真剣に話をしています。リーグ戦が終わったばかり、ホッとする場面で、もう今の試合の反省を始める2人。本当に真面目で、そしてサッカーが大好きなのでしょう。

　関塚コーチと話し終えた満男選手は、バックスタンド側の中央付近でフードをかぶります。アウグスト選手は、アウグストと書かれた赤い大きな布をマントのように羽織っています。サポーターの作った横断幕でしょうか。

　ゴール裏に差しかかると、満男選手は、軽く、右手を上げます。6回、7回と手を上げる満男選手。ゴール裏の熱い応援に対する、感謝の気持ちが伝わります。

　メインスタンド前に差しかかると、幸聖選手が立ち止まって満男選手を待ちかまえ声をかけてきます。今年、ナビスコカップの予選で奮闘、1得点をあげたものの、リーグ終盤にはベンチ入りもできないことの多かった幸聖選手。来季の契約は結ばれるでしょうか。満男選手が、練習の合間にボールを蹴り合う相手は、この頃、ほとんど幸聖選手でした。いなくなれば、満男選手も、寂しいことでしょう。

　メインスタンド中央まで来て、フィールドを出る階段の手前で、満男選手は立ち止まって上を見上げます。大きく手を振る先には、ちっちゃな赤ちゃんがおじいさんに抱かれていました。