2002/12/15(Sun)

　薄く日が差すピッチに、ベンチコートを着込んだ選手たちが入場してきます。サポーターからの小笠原コールに、右手を上げて応えた満男選手は、円陣に入る前に、秋田選手、中田選手と、青木選手に声をかけています。コンディションが悪いのか、本田選手がベンチにもおらず、今日は青木選手のスタメン。リーグの最終戦で退場になり、出場停止のファビアーノ選手に替わって、西澤選手が左CBに入っています。

　来季の契約を結ばないことが発表されている、アウグスト選手と西澤選手にとっては、これがホーム最終戦です。

　アントラーズは、ホーム用のエンジのユニフォーム。東京学芸大学は、白の上下に、白のストッキング。細いラインと背番号が、黒で入った、質素なユニフォームを着ています。

　午後1時、アントラーズ・ボールでキックオフ。

　アントラーズの選手が倒され、激しいブーイングが起こります。東京学芸大学は、5バックかと思われるくらいに、守備に重きを置いていますが、4-4-2のフォーメーションでしょうか。コンパクトな陣形を保つ両チーム。アントラーズの選手にパスミスが目立ちます。アントラーズは、相手ゴール前までボールを運んでも、スペースがなく、なかなかシュートが打てません。

　最初のビッグチャンスは青木選手。サイドを変えるパスを受けると、思い切って低く抑えたロングシュートを放ちますが、惜しくもゴール左にそれます。

　相手も攻め込んできますが、慎重な立ち上がりを見せるアントラーズの選手たちは、DFが陣形を崩しておらず、決定的なチャンスは作らせません。

　相手の、坊主頭の17番のFWは、体格も大きく目立ちます。秋田選手と、たびたび、やり合っています。

　満男選手は、サイドチェンジを意識しながら、ゴールマウスをこじ開けようとしているようです。初めてのCKは、名良橋選手を使いショート・コーナーにします。

　13分、目の前の選手と体を入れ替えるようにして前に出て、フリーでパスを受けた満男選手は、ミドルシュートを狙いますが、ボールに勢いがなくGKにキャッチされます。

　その直後、満男選手の右からのCK、学芸大学は、前線に1人だけを残し、守りを固めます。アントラーズは、3人を守備に残しています。満男選手の蹴ったふわりとした高いボールは、ファーサイド、ゴールから少し離れたところで秋田選手にピッタリと合い、ヘディングシュートは、緩やかな軌跡を描いてキーパーの上を越えゴール右に入ります。

　満男選手は、少し歩いて戻ってくると、うつむき膝を押さえます。どこか具合が悪いのでしょうか。そのまま、ハーフラインまで戻ると、秋田選手と祝福をかわし合うことなくプレーに戻ります。大学生相手で、今のゲーム内容で1点取っても、納得はできないと言っているような姿です。

　プレーが再開。学芸大学の応援団の歌声が聞こえてきます。

　アントラーズは、チーム全体の運動量が少なく感じます。コンディションのピークを、まだ先に合わせているのか、どの選手も体が重い感じです。自陣、深いところで中田選手から満男選手へのパスがミスパスになり、奪われてシュートを放たれますが、曽ヶ端選手がキャッチします。

　セレーゾ監督は、普段の試合と同じように、コーチングエリアのギリギリのところまで出ていったまま、戦況を眺め、指示を送っています。アントラーズの選手たちは、ポジションチェンジをしながら、相手を崩そうとしているようで、青木選手が高い位置まで上がって行きます。

　ミスパスからボールを得た柳沢選手は、ドリブルで上がり、シュートを放ちますが、ゴール右に外れ、倒れ込みます。

　アントラーズのミスから、また学芸大学のシュート。これも曽ヶ端選手がキャッチします。

　満男選手は、今日は、右にポジションを取ることが多いようです。右のボランチに入った青木選手のカバーを考えてのことでしょうか。選手が傷んでプレーが止まると、前屈してストレッチ。両足を投げ出すように振って歩いています。

　36分、アントラーズのゴール前で、学芸大学がサイドチェンジからシュート。サイドネットの外側ですが、あわや得点という場面。その直後にも、ボールをクリアするために、ペナルティエリアの外まで飛び出した曽ヶ端選手が、FWに交わされてシュートを放たれます。これも、ゴール脇に外れましたが、1点のリードでは、とても安心できない感じです。

　39分、タッチライン際で、名良橋選手が、相手スローインのボールを、遠くに投げてしまいイエローカードを受けてしまいます。

　この少しあと、満男選手から名良橋選手へサイドチェンジのパスがでますが、オフサイドです。

　前半の終了近くになっても、アントラーズの慎重な試合運びは変わらず、柳沢選手がボールを持ち、ドリブルで上がっていきますが、ゴール前にはエウレル選手1人です。

　前半終了間際、左サイドから上がった中田選手が、DFを1人交わしゴールラインまでえぐります。左サイドから、ゴールに突進するアウグスト選手に絶妙のパス。これを、アウグスト選手が見事に決めて2点目です。スタンドも、アウグスト選手のゴールに沸きかえります。

　ロスタイム1分で、前半終了。2-0で折り返します。

　Jリーグ管轄の試合と違い、サッカー協会の仕切る天皇杯は、普段と席割りが違います。2階席は解放されておらず、1階のみ。メインとバックのスタンドには、SOCIOの年間シートの設定がないせいか、真ん中あたりにだけ密度濃く人が固まっています。アウエイ側のサイドスタンドには、ゴールの真後ろに、ベンチ入りできなかった選手たちでしょうか、揃いの紫のジャージを着た70人くらいと、その周りに私服の応援団が30人ほど。ほかには、パラパラと一般客が座っています。

　対する、ホーム側のサイドスタンドは、ほぼ満員。J1チームとの対戦と同じように、熱い声援が送られ続けています。

　後半開始直後、満男選手の左CKから、名良橋選手がロングシュートを放ちますが、クリアされます。

　柳沢選手と相手5番の選手がもみ合います。小突きあいになったのか、5番の選手は倒れますが、カードは出されません。

　満男選手は、7番の選手にファールを受け、ピッチに仰向けに倒されます。

　右サイドにいた満男選手、左サイドのアウグスト選手から本山選手への短いパスがミスパスになり、相手に渡ると、左サイドまでカバーに走ります。

　8分、満男選手のスルーパスに柳沢選手が抜け出しますが、シュートはGKに防がれます。

　ファビアーノ選手の代役の西澤選手は、コンビが今ひとつ合わないようです。曽ヶ端選手へのバックパスを、西澤選手とアウグスト選手が同時に蹴ろうとして、ひやっとさせられます。

　前半も機を見て上がっていた青木選手、後半も、積極的にシュートを放ちます。アントラーズは、前半よりも、さらにポジションチェンジを激しく行い、得点を狙おうとしているようです。

　12分、満男選手がハーフラインの手前から、山なりのロングボールを蹴ります。このパスが、DFの裏へ、ピッタリのタイミングで抜け出した柳沢選手の目の前に落ち、GKと1対1になった柳沢選手は、ペナルティライン辺りから、落ち着いてシュート。アントラーズのサポーターのすぐ前で、ゴールを決めます。息の合ったプレーからの得点に、満男選手も嬉しそう。アウグスト選手におんぶされた柳沢選手に駈け寄ると、ハイタッチ。抱き合います。

　3点のリードで余裕ができたせいでしょうか、セレーゾ監督は、エウレル選手に替えて野沢選手を入れます。本山選手がFWに上がり、2列目の右に満男選手、左に野沢選手になります。左のCKを、野沢選手が蹴ります。

　18分には、イエローカードをもらっている名良橋選手に替わって、内田選手が入ります。

　22分、相手GKのフィードがミスになり、カットした柳沢選手が、左サイドに開いた本山選手にパス。本山選手は、ゴールライン近くを、ドリブルで切れ込みながら、タイミングを計って、ファーサイドに上がってきた満男選手に絶妙のパスを出します。満男選手の放ったシュートは、バーに当たって真下に弾かれます。ボールが落ちたのは、ゴールラインのわずかに手前。ノーゴールです。

　学芸大学のプレッシャーが緩くなり、アントラーズは自由にプレーできるようになっています。ドリブルでゴール前に、強引に進むアウグスト選手。左を青木選手がオーバーラップしてきたのに気づいた満男選手は、すかさずフォロー。アウグスト選手に近づいていき、パスを受けるとワンタッチで青木選手に出します。

　無失点で終わらせたいアントラーズですが、相手にもチャンスを作らせてしまいます。相手FWのヘディングシュートは、ゴールの左にそれて、事なきを得ます。

　野沢選手と満男選手は、自在にポジションチェンジしているようです。

　満男選手が前向きでボールを持ち、タイミングを見計らって柳沢選手に出した速いパスは、相手にカットされます。思わず天を仰ぎ、両手で顔をおおう満男選手。戻ってくる柳沢選手に、手を上げて謝ります。

　ペナルティエリアの中で、相手選手と絡んで、弾かれるように転んだ本山選手。プレーが続くなか、足を押さえたまま立ち上がれません。担架が用意され、プレーが途切れて、主審が駆け寄ってくると、何事もなかったかのように立ち上がります。

　33分、学芸大学は、2人の選手を交代させます。

　満男選手は、うまくカーブをかけて、柳沢選手にパスを出します。DFの裏でそのパスをトラップした柳沢選手ですが、シュートを打つ前に、ボールをGKにガッチリと押さえられてしまい、悔しがります。

　右サイドをドリブルで上がる満男選手。アントラーズの選手たちが駈け上がります。満男選手がパスを出したのは、左サイドをゴールライン近くまで上がった秋田選手。アントラーズは、もう自由にプレーができています。

　36分、柳沢選手に替えて、長谷川選手が入ります。

　野沢選手は、DFのクリアボールを拾うと、積極的にシュートを放ちますが、枠を外します。

　39分。満男選手は、ゴール前、やや右寄りでボールを持つと、中に切れ込んでDFを1人外し、しっかりとコースを見極めてシュートを放ちますが、なんと、これもポストに嫌われてしまいます。左のポストに弾かれたボールは、ゴールラインの10センチくらい手前に落ちて跳ね返ります。今日は彼の日ではないようです。

　アントラーズの4点目は、相手の交代の直後に生まれました。42分、ドリブルでゴールに突き進んだ本山選手は、DFを交わすと、GKの直前から落ち着いてシュート。ボールはゴール右に決まります。

　左サイドで、本山選手からの短いパスを、前向きで受けた満男選手は、大きなサイドチェンジのパスを、右の野沢選手に出します。野沢選手のシュートは、クリアされゴールラインを割ります。

　満男選手の左CK。ショートコーナーで、本山選手とのワンツーから、クロスを上げますが、GKにキャッチされます。

　ロスタイムは2分で試合終了。東京学芸大学は、去年の天皇杯3回戦で戦った、奈良産業大学よりは、ずっと練れたいいチームでしたが、フィジカルで勝るアントラーズが、後半になって楽に試合を進め、4-0で勝つことができました。

　ピッチの中央に戻り、笑顔で野沢選手と話す満男選手。ほかの選手たちと一緒にフィールドを周り、バックスタンド、サイドスタンドのファンに、軽く手を上げて挨拶していきます。

　ゴール裏からは、アウグストコールが起こります。たくさんのゲートフラッグが掲げられ、紙吹雪、紙テープが投げられます。手を上げ、腰をかがめ、サポーターに挨拶をしながら歩いていたアウグスト選手は、感激のあまりか、ユニフォームを脱ぎスタンドに投げ入れます。

　これがホームのサポーターとのお別れになるアウグスト選手。気になるのでしょう、満男選手も、その様子を大きく振り返って見ていました。