アップでボールを蹴っているときから、今日はコンディションがいいと感じられる日があります。この日の満男選手がそうでした。2人組んでのパス交換。ピッタリと秋田選手に合うボールもあれば、外れるボールもあるなかで、体のキレはよく、きびきびと心地いい動きです。
3月上旬のアジア・チャンピオンズリーグでは、35℃以上の気温のなか、5日で3試合をこなさねばならず、コンディションが落ちることを心配していましたが、すっかり元に戻っているようです。3月下旬のアメリカ遠征が、イラク戦争の影響で中止され、代わりに日本で行なわれたウクライナ戦で出場機会がなかったことも、コンディション的にはいい方に働いたのかもしれません。
アップの最後、いつも通りゴールを狙う満男選手の鋭いシュートは、惜しくも左のポストを叩き、大きく跳ね返ります。
この日は、「春とは名ばかりの」という表現がまさにピッタリの天候。前夜から、花見客を泣かせる冷たい雨が降り続き、当日夜になっても降り止みません。しかも、雨ばかりでなく、強い風が吹き抜け、否応なく体温を奪っていきます。アクセスや運営は相変わらず最悪の柏の葉スタジアムですが、ほぼ全面に屋根があることに、思わず感謝してしまいます。
立ち上がりから、レイソルの選手たちは、激しくボールを奪いに来ます。今シーズン始まってから公式戦で勝ちがなく、メンバーもまだ固定されていないレイソルは、スタメン争いに対する選手たちのモチベーションが高いよう。荒々しくぶつかってきます。
ピッチは、メイン側の1/3ほどに、かすかに水が浮いて見えますが、プレーにはそれほど支障はないようです。風の影響は強く、曽ヶ端選手の蹴ったボールが、大きく押し返されています。
アントラーズは、アジア・チャンピオンズリーグの4−4−2から、リーグ戦に入って、4−3−3にフォーメーションを変更。この日も、フェルナンド選手を真ん中に置いた3ボランチ。レッズ戦と同じく、平瀬選手が中央高い位置にいて、その少し後ろの右側に満男選手、左にエウレル選手がいるのが基本ポジションに思えますが、満男選手は、左右に、自由に動いています。
リーグ戦1戦目は、4バックで戦ったというレイソルは、今日は3バック。真ん中に薩川選手が入るという変則的な形です。
10分には、右からドリブルで上がったエウレル選手が、ゴール前に上がった平瀬選手にアーリークロス。平瀬選手に合わずに左に流れるところを満男選手がもう一度クロスを入れるチャンスになります。
満男選手は、下平選手の激しいマークにあっています。スライディングタックルで倒され、危険な感じです。風下のピッチに立たされたアントラーズは、徐々に押されてきます。満男選手は、鋭いキレのある動きを見せてはいますが、ファーストタッチが、試合開始から3分ほどしてからで、その後も、なかなかボールが回ってきません。
3ボランチがまだ慣れないせいか、アントラーズの左サイドのマークのずれも気になります。
16分、レイソルの右CKから、ゴール前での混戦。ゴールの中にいた名良橋選手が、シュートを防いで、間一髪、ピンチを逃れますが、それから1分もしないうちに、中田選手のミスから先制点を上げられてしまいます。雨に濡れたピッチのせいでしょうが、あまりに目立つミス。足下のボールをリカルジーニョ選手に奪われると、そのままミドルシュートを決められてしまいました。
先制されたことで、風下のアントラーズは、徐々に厳しくなっていきます。23分には、2列目から抜け出した平山選手が、全くのフリーでシュートを打ちます。これは、幸運にもバーに当たってゴールになりませんが、決定的な場面でした。
チームはペースをつかめません。満男選手の位置まで、ボールが回ってくることが少なく、満男選手も、徐々にポジションを下げますが、どこか中途半端な感じです。満男選手のFKなど、いくつかのチャンスを作りながらも、悪い流れのままに前半が終了してしまいます。
後半に入って、寒さはいっそう厳しくなります。手袋をはめた選手たちは、プレーが止まる少しのあいだも、ピッチを走って体を暖めています。満男選手はポジションを完全に下げ、平瀬選手、エウレル選手の2トップの、トップ下に入っているようです。
風上に立っても、すぐにはペースを握れないチームに業を煮やしたのか、セレーゾ監督は柳沢選手を呼びにやります。ベンチに来た柳沢選手が準備をしている最中、後半4分、同点弾が決まります。
左寄りのFK、満男選手が蹴る気十分で立っているところを、いきなり駆け込んできたフェルナンド選手が左サイドの相馬選手に出し、遅れて飛び出した相馬選手が上げたクロスのクリアが、フェルナンド選手の前にこぼれます。フェルナンド選手の左足のシュートが、右のサイドネットに突き刺さってゴール。低く抑えられた素晴らしいシュートでした。
ライン際で喜ぶ柳沢選手のところに、フェルナンド選手も走ってきて、喜びを分かち合います。室内のアップ場に引き返していく柳沢選手。この天候とピッチの状態では、ケガ上がりの柳沢選手に無理はしてほしくありません。ほっとする瞬間です。
ここで、一気にアントラーズのペースになります。満男選手がタメを作ってボールを散らし、中田選手、フェルナンド選手のシュートが放たれます。前に向かってドリブルで進む満男選手は、囲まれてボールの出しどころがなくなっても、常にゴールに向かっていることが感じられます。
13分、エウレル選手のボールを相手陣内中央で受けた満男選手は、ドリブルでまっすぐにゴールに向かいます。ペナルティエリアの少し外から思いきり打ったグラウンダーのシュートは、南選手の手の先を越えて、ゴールポストの左外。アップのときの鋭いシュートを思い出されるようなボールの軌跡でしたが、今回も、ゴールネットを揺らすことはできません。
その4分後、自陣のフェルナンド選手から出たグラウンダーの長いパスを、平瀬選手が落として、反転、前に走り込みます。パスを受けた満男選手は、さっきと同じようにドリブルでゴールに向かって進みます。次の瞬間、満男選手が蹴ったボールは、全く予想しなかった軌跡を描きました。
高く浮かせたループシュート。目の前のDFの頭の遙かに上を越えたボールは、ジャンプした南選手の手が全く届かないところを越えて、左ポストをかすり、ゴールの中に落ちたのです。この日、24歳の誕生日を迎えた満男選手の、見事な、創造性にあふれる素晴らしいゴールです。
笑顔で軽く両手を上げてガッツポーズを作る満男選手に、チームメートが駆け寄ります。
この満男選手らしいプレーのあとの満男選手のプレーが、また、本当に満男選手らしいものでした。突然、大きくポジションを下げると、前半から、たびたびフリーになって、レイソルのキーマンになっていたリカルジーニョ選手を厳しくマーク。フェルナンド選手が、自分の帰る位置がなくて、一瞬戸惑いの表情を見せるくらいに、真ん中、ボランチの位置に下がります。
リカルジーニョ選手のFKの真ん前に立った満男選手。クイックスタートで蹴ったボールに足を出して止め、それでもどかない満男選手を、リカルジーニョ選手が押します。主審がホイッスルを吹いて満男選手にカードを出します。FKの妨害です。
リカルジーニョ選手とは、前半にも1回、小競り合いがあり、後半の早い時間にも1回。倒れながらボールを抱えこんだリカルジーニョ選手から、満男選手が、力ずくでボールを取ろうとして、押し返され、ボールを離したリカルジーニョ選手を満男選手が激しくどつき、一発触発。珍しく満男選手が、味方のクイックスタートに反応が遅れるほど、熱くなっていたのでした。
ただ、このときイエローカードになったプレーは、熱くなってのものではなく、リカルジーニョ選手が常に狙っていたクイックスタートを防ごうとしてのもの。明らかな反則ではありますが、満男選手の集中力を表わしたものともいえるかもしれません。
下がっているだけではなく、攻撃時には、2列目の位置に上がっていく満男選手。ボールをキープし、雨の中のリスキーなゲームを落ち着かせようとしているようです。リードをキッチリ守るための考えられたプレー。チームの中心として、ゲームコントロールする姿に、貫禄が感じられます。
後半30分には、柳沢選手が平瀬選手と代わってピッチに入ります。約1ヶ月半ぶりの復帰になった柳沢選手の体のキレはよく、前線でボールを引き出す動きが目をひきます。レッズ戦から、ポジショニングを修正して、特にこの試合では、前線での起点になっていた平瀬選手ですが、柳沢選手の動きの前では、その活躍がかすみます。
31分に、腰を痛がっていたフェルナンド選手に代わって、本田選手が入り、満男選手は、守備時には、完全にボランチの位置にいるようになります。
フェルナンド選手がいなくなったことで、両サイドのCK・FKを満男選手が蹴ることになりますが、そこからも、たくさんのチャンスが作り出されます。右サイドのFKから、サインプレーで、中に入ってくる柳沢選手にワンバウンドで合わせ、柳沢選手が完全なフリーでシュート。惜しくも南選手にパンチングで防がれます。
柳沢選手が決定的なシーンを何回か作り、満男選手を中心としてボールをキープしながら、アントラーズが完全にペースをつかんだまま試合が進みます。
試合終了前に、何本か蹴った左CKは、カウンターを防ぐためか、低めのボール。風の後押しもあって、ゴールに向かって鋭いカーブがかかります。
ロスタイム4分の終了間際、左CKから満男選手の蹴ったボールを、ゴール前の中田選手が蹴り込みます。中にいたDFの足に当たってゴールから弾き出されたボールは、いったん完全にラインを割ったように見えたのですが、ゴールは認められず、直後に試合は終了しました。
1点、損してしまった気分になりながらも、満男選手の活躍、後半の気持ちのいい試合運びに、満足できる試合でした。今日のようにコンディションのよい満男選手を見るのは、1年半ぶりになるでしょうか。このいいコンディションが、長く続くいてくれますように。
帰路を急ぐ足に、ヒーローインタビューを受ける満男選手に送るサポーターたちのコールが響いてきました。
