2003/2/22(Sat)

　今にも雨が降り出しそうな国立競技場。昼の1時半からの試合とはいえ、日差しがなく、本来なら寒く感じるところでしょうが、ここまでのA3杯の2試合で、真冬の雨の試合とナイトゲームを、経験してきたせいか、暖かくさえ感じます。

　中2日で、4試合が行なわれたピッチは、少し荒れ始めて、特にゴール前は、芝がはがれ茶色く見えています。

　大きなA3のロゴの入った旗がピッチ中央に広げられる中、フェアプレイフラッグに続いて、両クラブの旗の入場、ペナントの交換と、国際試合らしいセレモニーが、慣れた雰囲気で行なわれます。

　照明灯に明かりが入って、試合開始。アントラーズは、前の試合でヒザと足首の靱帯を痛めた柳沢選手に代わって、平瀬選手が入っています。エンジのユニフォームのアントラーズがメインスタンドから見て右側、黄色のユニフォームの城南一和が左に散ります。

　円陣を組みポジションにつく選手たち。サポーターの小笠原コールは、キックオフと重なるタイミングで、試合に集中する満男選手は応えることができません。

　城南のボールでキックオフ。ボールを下げる相手に、高い位置で奪おうと、襲いかかるように駈けだし、体を寄せていった満男選手は、さっそくファールを取られます。この試合に掛ける満男選手の気持ちが感じられます。金髪の満男選手、手袋をはめています。

　今日の主審は、ルー・ジュンさん。審判団は中国人で組んでいます。

　この大会、1試合目を4−4−2、2試合目を4−3−3のシステムで戦ったアントラーズですが、今日はフェルナンド選手と満男選手が2列目で組む4−4−2にしているようです。アントラーズの伝統的なシステムですが、フェルナンド選手が左利きのため、2列目の頻繁なポジションチェンジは見られません。満男選手が左になったのは、試合の中で、ほんの数回だったでしょうか。

　2連勝しているアントラーズは、このゲーム、勝ちか引き分けで優勝が決定。1点差で敗れると、このあと行なわれる試合の結果次第で、得失点差の勝負になりますが、計算上は、アントラーズの優勝の可能性が高いと思われます。

　城南一和は、この試合に、2点差以上つけて勝たないと、優勝の可能性がなくなります。キム・ドフン選手、サーシャ選手、デニス選手、キム・デイ選手と4人のFW登録の選手を入れ、4人が、自由なポジションチェンジをしながら攻め上がります。残った6人は、上がることなく、自陣ゴール前をがっちりと固めます。中盤を飛ばしたロングボール主体のサッカーです。

　開始20分すぎ、城南がたて続けに攻め込みます。

　アントラーズは、左サイドの連携が、ややまだ悪いようで、時に相手の右サイドの選手をフリーにしてしまっています。

　守備に追われる満男選手、低い位置で、相手の前に巧く体を入れてボールを奪いますが、足下にボールが入ってしまったのか、速度を上げることができません。慎重にボールを後ろに下げます。

　28分、相馬選手、フェルナンド選手とつないで、エウレル選手のシュート。これは、弱くて、相手GKにキャッチされます。

　城南のシュートは、バーの上を越え、ほっとします。

　左CKを蹴る満男選手。ファーサイド、ゴールから離れたところの名良橋選手に出す、お得意のパターンを使いますが、名良橋選手のトラップが巧くいきません。

　満男選手がスライディングでボールを奪おうとし、相手と交錯します。痛めている右足を、また悪くするのではないかとひやっとします。

　相手FKの流れから、エウレル選手のスピードでカウンター。数少ないアントラーズの攻撃シーンが生まれます。左サイドのライン際でためたを作った満男選手は、ファーサイドのゴール前に走り込んだ平瀬選手に長い正確なパス。平瀬選手は頭で折り返しますが、GKにキャッチされます。

　自陣で守備に追われながらも、機を見てゴール前まで上がる満男選手。ロスタイム、サイドのエウレル選手にボールが渡ると、ゴール正面まで駈け上がります。

　ロスタイム1分で、前半終了。何やら主審に抗議に行く中田選手。主審に追い払われますが、代わって相馬選手が食い下がります。2年前のケガまでキャプテンマークを巻いていた相馬選手、やはり、こういう交渉は慣れたものに見えます。

　ハーフタイムのスタンドを、2万人ほどの観客が埋めています。1999年4月、アジアカップウイナーズカップの決勝トーナメントが、同じこのスタジアムで行なわれました。その時、アントラーズが出場した3位決定戦には、日曜日というのに3,000人ほどしかお客さんが集まらなかったはずです。わずか4年のあいだに、アントラーズやアジアのサッカーを取り巻く環境が、大きく変化しているのが実感できます。

　サイドスタンドは、キレイに赤と黄色に染め分けられています。アントラーズのゴール裏は、ほぼ満席。城南側は、中央前の方に黄色のユニフォームを着込んだ応援団、その周囲に、黄色のレインコートを着た人たちがたくさん集まっています。昨年の、韓国の済州島で行なわれたアジアクラブ選手権準々決勝リーグの、水原三星や安養LGのサポーターよりも、ずっと人数が多いのは、多分、在日韓国人の人たちが来ているせいなのでしょう。

　後半開始。プレーがとぎれると、満男選手は平瀬選手に、声を掛けます。攻撃時のタイミングについてでしょうか。多分、監督の指示ででしょう、平瀬選手は、下がり目にいることが多く、エウレル選手がワントップ気味になっています。

　攻め込まれるアントラーズ。後半5分、自陣深く下がった満男選手が、相手の足下からボールを奪い、スタンドが沸きます。満男選手らしい、素晴らしい守備です。

　秋田選手が痛んでプレーが止まった少しのあいだに、満男選手は、右足先を地面に着けて、ぐるぐると回しています。痛めている右足首、プレー中には痛そうな様子はありませんが、違和感があるのかもしれません。

　平瀬選手が左の高い位置でボールをキープ、上がってきた相馬選手に戻したパス。相馬選手はゴール前に飛び込んだ満男選手にあわせ、クロスを上げますが、長身のDF2人に挟まれて、ボールは満男選手に届きません。

　10分、平瀬選手のロングシュートはやや弱く、GKにキャッチされます。

　今度は、平瀬選手が満男選手に声を掛けます。お互いにコミュニケーションを取り合ってプレーをしているようです。

　フェルナンド選手の出したパスを、ワンタッチで左前のスペースに送る満男選手。よく見えています。

　11分、名良橋選手のサイドチェンジのパスを左側で受けた満男選手、一瞬タイミングを見て、DFの裏の平瀬選手に浮かせたパスを出します。平瀬選手のヘディングシュート。場内は沸きますが、これは完全なオフサイドです。

　城南は、選手交代を使い、フレッシュな選手を送り込んできます。

　攻め込む城南。オーバーヘッドシュートを、名良橋選手が相手の足に蹴られるのも恐れず、ヘディングでクリアします。

　19分には、カウンターで、キム・デイ選手が高嵜選手と1対1。シュートは右ポストすれすれをそれ、アントラーズは助かります。

　中盤で、何とかボールを落ち着かせようとするアントラーズ。中田選手、満男選手を経由するパスが増えます。厳しい場面になればなるほど、2人に預けられるボールが増えるようです。2人も、まずは、着実なプレーを選択しています。

　必死で守備をする満男選手。ライン際で四つんばいになって相手をブロック、マイボールにしようとしますが、相手ボールになって、悔しそうな顔を見せます。

　34分、攻め込まれたところからの相手FK。ヘディングで合わされますが、高嵜選手が片手一本で防いで難を逃れます。雨の中の初戦では、不安定なプレーを見せていた高嵜選手ですが、この試合、当たっています。

　攻められ続ける中で、残り5分。セレーゾ監督が指示を出し、内田選手と池内選手がアップを始めます。

　カウンターの起点となった青木選手、レイトタックルで倒されます。激しく抗議に行く中田選手。両チームの選手たちが、もみ合いになります。城南のキャプテン、シン・テヨン選手は、冷静にチームメートをなだめようとしますが、アントラーズのキャプテン、中田選手は、熱く相手選手に詰め寄り、胸を突き飛ばされます。

　大きく後ろに転ぶと、顔を押さえる中田選手。満男選手や相馬選手は、突き飛ばした選手と倒れている中田選手のあいだに割って入り、止めようとします。

　主審が、10番のサーシャ選手にイエローカードカードを出します。すかさず満男選手は、11番のデニス選手を指さして主審にアピール。中田選手と胸をつき合わせ、言い合っていたのはサーシャ選手ですが、突き飛ばしたのはデニス選手。さすが、冷静な満男選手。しっかりと見ています。

　騒ぎがようやく収まり、プレー再開。アントラーズは、メンバーを交代させます。平瀬選手に変わって、池内選手が入ります。池内選手は右SBに入り、名良橋選手がポジションを上げたように見えます。

　ロスタイムは4分。

　最後の最後に、また、アントラーズは攻め込まれますが、城南のシュートは枠を外れます。

　0−0のままホイッスル。アントラーズの優勝が決定します。

　満男選手は、試合が終わったと同時に、両手をももに当てて、うつむいたまま動けなくなります。ロングボールを使った相手の攻撃に、守備に追われることがほとんどだったこの試合。疲れきってしまったようです。

　満男選手に、シン・テヨン選手が声をかけ、頭を押さえるようにして話しかけます。アントラーズの選手同士、声掛け合い、タッチを交わして優勝を祝っています。満男選手も、笑顔で仲間と声を交わします。

　自分たちのサポーターに挨拶に行く両チームの選手たちは、すれ違いざまに、声を掛け合い挨拶を交わします。

　アントラーズの選手たちは、フィールドの隅に置かれた、マツダの黄色い車の脇を通ってサポーターの方に向かいます。軽く片手を上げて挨拶すると、ほかの選手より早めにメインスタンドに向かった満男選手。アントラーズの広報担当の人が、いたわるように肩を抱いて話しかけます。

　メインスタンドに近づいた頃、サポーターから小笠原コールが起こります。そのコールに、満男選手は、はっきりと片手を上げて応えます。

　今年最初の大会でタイトルを取ることができたアントラーズですが、この試合に限っていえば、チーム全体のコンディションもよくなく、城南一和の攻めに苦しめられました。満男選手も、守備では大活躍だったものの、攻撃でいい形はほとんど作ることができず、満足のいくプレーはできなかったと思います。

　でも、いい結果がでることで、チームとしての自信が着き、それが力になっていくもの。昨年は、シーズン前のアジアクラブ選手権を落とし、疲労ばかりを残してリーグ戦に入っていかなければならなかったアントラーズ。今年は、それを教訓に、結果を求めているんだと思います。これから続く、アジア・チャンピオンズリーグでも、結果を残し、いい形でリーグ戦に入っていければいいですね。